第7話 生意気女子中学生のこっそり覗き見サイバー攻撃

「ウチが作った芸術品の数々を、仕方がないから見せてあげる! ホントはあんたになんか見せるのもったいないんだけど! まあ、どうしてもって言うなら?」

「うん。僕、お店の手伝いに行くね」



「待ってぇー! 興味持ってよぉー! えっ、おかしくない!? この流れで普通、ウチを無視して仕事に戻るとかないでしょ!? ギャルゲーだったらバッドエンド確定なんだけど!? 青菜あおなって、名が体をあらわしてる系!? 草食にも程があるし! さっきの獰猛どうもうなお掃除星人キャラはどこ行ったの!? ねーえー!!」



 たんぽぽちゃんが僕の足に張り付いて、多分「行かないで、話し相手になって」と言っている。

 そんな風に言われると、さすがに無下にするのも可哀想。

 きっとこの子は、感情表現がヘタだから、友達も少なさそうだし。


「……なんか、超失礼なこと考えてるよね!?」

「すごい! 当たってる!」

「むきーっ!! 子ども扱いするなー!! ウチはもう中学二年生だぞ!!」


「偉いなぁ。ちゃんと自分の学年が言えるんだね」

「小学二年生の対応をするなー!! バカ、バカバカー!!」


 感情表現が豊かな子って可愛らしいなぁとほっこり。


「ウチの専門はメカニックとサイバー系なの! ふふーん? すごいでしょ?」

「あ、うん。ハイパーメディアクリエイターってヤツだ。知ってる、知ってる」


「すっごい知ったかぶりが過ぎるんだけど! あんた、さては機械音痴だな!?」

「スマホは使えるよ」


「おばあちゃんだって使ってるでしょ! もう機械の話してスマホを持ち出してくる手合いは、だいたい音痴! これは世界のジャスティス!」

「たんぽぽちゃんは難しい言葉を知ってるなぁ」

「あとさっきから、微妙に兄目線なのも腹立つんだけど! 勝手にウチの領域に侵入してくんなぁ!」


 たんぽぽちゃんは「最近の男はまったく。ホント信じらんない」と言いながら、僕の前にいくつかの機械を置いた。


「あんたでも分かりやすそうなのから説明したげる! これはね、超小型の通信機! 耳の中にすっぽり納まるから、誰にも気付かれずに連絡が取れるの!」

「耳から出て来なくなりそうで怖いなぁ」


「発想がもうお年寄りの域なんだけど! あんた、40年くらい浪人してたの!?」

「ひどい事を言うなぁ」


「もー、いい! こっちはすごいよ! うそ発見器! 超精巧にデータが出るの! ほら、ちょっと付けて見て! 分かりやすく、1から10までで表示されるだよ! 1がホントで、10に近づくほど嘘! ふふん、これで本性を見てやるんだから!」


 少し嬉しそうにしながら、僕の腕にうそ発見器を付けるたんぽぽちゃん。

 結構可愛い。

 モグラの着ぐるみパジャマも相まって、なんかこういう可愛い生き物がいるかのように感じ始めている僕がいた。


「はい、これで良し! あんたの企み、全部看破しちゃうんだから! 質問! ウチに悪い事をしようとしている!」

「……10ウソから微動だにしないね」


「ふ、ふん! 質問が悪かったわ! ウチの事が好きである!」

「……なんか、ホントの下にメーターがめり込んだよ?」


「な、なっ!! 何考えてんのよ! あんた! 変態! バカ、バカバカ!! ウチの事なんか放っといて!」

「分かったよ。プライバシーってあるもんね」



 メーターが10ウソを通り過ぎて行った。



「お、おかしいんじゃないの、あんた! 構うなって言ってんでしょ!? も、もう良い! ウチ、仕事するから!」


 くるりと背を向けて、パソコンに向かうたんぽぽちゃん。

 そう言えば、マスターに「仕事の手伝いもしてあげてねぇん! あの子、素直になれないから、無理やりでも良いわよ!」と指令を受けていたのだった。


「ふっふーん。今日の依頼はこいつかー。悪質なストーカー野郎! ウチが天誅を下してやるのだ! 見てろーっ!」

「おお、すごいタイピングの速さ! さすがサイバー担当!」

「でしょー? ふふん、もっと褒めても良いんだか、ら? ……なんでまだいんのよ!?」


「いや、マスターにお手伝いしなさいって言われてさ。とりあえず、出来る事はないかと思って観察を」

「あー、そっか。あんた『花園はなぞの』の事、知ってんだっけ? じゃあ、いいよ。ウチの華麗な悪人退治を見てなさい!」


 たんぽぽちゃんは、ストーカー被害に遭っている女子高生からの依頼で仕事をする事になったと言う。

 かなり悪質な手口で、SNSで依頼主の家に不法侵入したりする様子をアップして公開しているとか。


「なんで警察は動いてくれないの?」

「ありがちなパターン。このキモ野郎、鮭ヶ口さけがぐちの市議の息子で、なんかお金を握らせてるっぽい」


 なるほど。だいたい事情は理解できた。


 【ミッション!】

 ストーカー野郎を社会的に抹殺せよ!

 再起不能に追い込むまでが既定路線。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あー、生意気にプロテクトかけてる。ふふーん、ウチにかかればこんなもの、ナシ寄りのナシだから! はい、PCに侵入成功ー!!」

「よく分からないけど、すごいよ、たんぽぽちゃん!」


「よく分かんないのに褒めんな! あとでいっぱい褒めさせてあげる! うへぇー。すっごい趣味だ、こいつ。女子のパンツ被って写真撮ってる。どーゆう頭の構造してんの? それで何が得られるの!?」


 ドン引きたんぽぽちゃんが、その原因の写真を拡大して、何やら色々と忙しそうに動いている。


「名前はー。はいはい、出たー!! 山野風やまのかぜ重太郎じゅうたろう! 名前も重いし、やってる事も重いとか、ないわー」

「それで、この悪人の情報を手に入れて、どうするの?」

「んー。まあ、適当にSNSとか掲示板にばら撒いて、本人には2度とすんなって警告かな? PCに侵入された事も分からせとくし!」



「この山野風やまのかぜとか言う人、仕事してるんだったらさ、その人の職場にもこの情報を送るのはどうかな?」

「うげ、あんた、意外とエグいこと考えるね……。でも、それはアリ! 2度と立ち直れないようにしてやんないと、依頼主が安心できないもんね!」



 そして、山野風さんが割と大きな、誰でも名前は聞いたことのある企業に勤めていることが判明。

 そこにたんぽぽちゃんが、「ストーカーしてまーす」と言うタイトルで、彼のやってきた悪行の全てをまとめたデータを送信した。


 文字にすると地味であるが、この瞬間、ストーカー野郎の全てが失われたのだ。

 しかし、罪もない女子高生を恐怖のどん底に落とした罪は、一生かけても償えないので、僕は同情の余地なしと考える。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いえーい! 青菜、おつー!!」

「お疲れ様なのはたんぽぽちゃんじゃないか。凄いなぁ、中学生なのに、人助けができて」


「ま、まあね? でも、さ。あんた、青菜も、ちょっとは役に立った訳だからさ! 少しだけ認めてあげる! ねーねー、青菜! 仕事したらお腹空いたー!!」

「分かったよ。お店も終わっている時間だし。何かオヤツを作るね」


「ひゃっほーっ! 青菜の料理美味しいから、オヤツも楽しみー!!」




 こうして女子中学生ハッカーの仕事を見届けた僕は思った。


 これ、もしかして既に知り過ぎてしまっているのでは。

 辞めるって、ますます言い辛くなっていく、死のスパイラルに入っていませんか?

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