第10話 相棒はいかが?
〇〇〇
「もしあれが俺の予想通りなら、倒すのに一番適しているのはセツナ。お前の魔法だ」
「えぇっ!?」
そう俺は真剣にセツナに告げた。
「魔法の属性には相性があるだろ? 多分あの野郎の大砲の魔法式は、マギビークルの魔法属性の真逆のはずだ」
「え…ヘンリックの
まぁ、そう聞かれるのも仕方ない。
万理印を見る以外に、
俺があの男の魔法式にあたりをつけたのは、別な理由があった。
「……正確には。"お前の使えない属性"の魔法式である可能性が高いってことだよ」
「そ、それって……」
「あぁ、俺は奴がお前の親父さんを襲った犯人だと思う。言葉の端々からそうじゃないかってな」
セツナは俺の正面で目を泳がせた。畳み掛けてしまっているから無理もないが、今はいちいち懇切丁寧に説明している時間ではなかった。
「"極化回路を患った奴"と"極化回路にさせた奴"ってのは、使った属性は相殺の関係になる。
アイツの砲撃を恐らくマギビークルのブレーキが無力化するはずだ」
「ブレーキ? アレにはただブレーキ以外の力なんて────」
「さっき言いかけたことだがな」
俺はセツナの話を遮る。
彼女に一番聞いて欲しいことはそもそもこれだった。
極化回路だからって魔法使いを止める必要はない、最大の理由。
「極化回路を患った人間は、自分が使える属性の扱いに長けるんだよ。
努力的な問題に加えて、頭ん中のイメージがその属性に特化するからだ」
「!!!」
「お前のマギビークルのブレーキを見た。
恐らくマギビークルが思いっきり減速した時、魔法を弾く障壁みたいなのが出てる。
それで奴の懐に飛び込んで……これを撃つ」
そう言って俺は自身の万理印……魔法式の紋様をを象った、歪な線を描く鍵を彼女に見せる。
「俺の魔法は"魔法を殺す"ことに特化した、毒属性と雷属性の碧い稲妻。
コイツをコアか万理印本体ににぶち当てれば、魔法そのものを破壊できる。
アイツの万理印がどんなもんか俺は知らない。でもセツナ、お前なら知ってるんじゃないか?
お前の知ってる
〇〇〇
ふと我に返る。目の前には鮮烈なまでの白。
自分の立てた作戦であったが、あまりの魔力と緊張感で少し意識が遠くなっていたらしい。
(やばい、早く展開をッ)
焦りを覚える。が、同時に頼もしい熱が自分の胸の前に居ることに気付いた。
セツナの顔は見えない。
しかしその顔は目の前の光から目を背けず、マギビークルのレバーがしっかりと握られていた。
右手を頭の後ろへ回し、背中の方で鍵をひねる。魔法陣が手の先で発生しているのが皮膚の感触でわかった。
直後、衝撃。
マギビークルが怪物艦の主砲の一撃と激突する直前に、全開の
目の前の白が映し出したのは、ブレーキとともに現れた薄紫色の半透明な膜。
マギビークルと俺たちを包むそれは、減速時に放出する闇属性の魔力に他ならなかった。
一面の閃光が膜の外……俺たちの周囲を掠めていく。
身体もマギビークルも無事。
やはり奴の魔法式は白色が主軸だ。
闇属性の色は黒。
セツナの極化回路は白色と赤色だという。
奴の魔法を防ぐのにはもってこいだった。
しかし圧力に視界がぼやけ、意識がまた飛びそうになる……。
セツナ、負けるな。
そう思いぎゅっと回した腕に力を込めた。
視界の外側が黒くなっていく。
まずい────────
「アラタ」
目の前から小さく聞こえた、一言。
そうだ、俺は。
もう逃げない為に、彼女と勝つ為に……今戦っている。
セツナは賭けたぞ。自分の命を。
雷槍を膝に刺す。
ピリピリと感じる僅かな痺れ。
体内のマナに反応して槍が刺激を与えている。
意識が冴え、光の終点が見える。
それとタイミングを合わせるように、俺はマギビークルを蹴ってその出口へとひとっ飛びした。
世界に色が戻った。
色彩に焼かれる瞳の向こう、大きく開いた怪物の口。
何が起きたのか、と目を見開くヘンリック。
そして、熱を出し切り灰色に沈んでいく奴の主砲。
その付け根、口の奥。そこに────
「
身を投げ出したまま、鍵で目の前の空を切る。
展開できる限りの槍。それらを引き抜き一本に束ねた。
奴の主砲にも劣らぬ5メートル超の雷が、俺の背中で迸る。
毒属性を宿した雷の槍。
それは魔法やマナのみに高い苦痛と衝撃を与える"魔法を殺す魔法"。
これが俺のできること……
奴のコア目掛けて槍をぶん投げる。
手を離れた瞬間、雷は轟音と共に怪物の口内へと奔った。
音が止んで、2秒。怪物の主砲が碧い色を帯び────────。
ドォンッッッッッ!!!!
大きな波を起こしながら、船体が碧色の電光に包まれた。
よしっ、やった!!!
そう思ったのも束の間、俺は身体がどっと重くなったのを感じる。
それもその筈だ。さっきまで集中していたし魔法も打ち切ったし……
いや!? これ落ちてるからじゃないか!?!?
下を見ると海面がそこまで迫っている。
そういえば、自分を投げ出して一撃かました後のことは何も考えて無かった。
手遅れだと思いながらも身体をどうにか着水する姿勢に整えようとする。
すると────
「うおおおりゃあああっ!!!」
そんな叫びが聞こえ、海面へと叩きつけられる直前に俺は何者かに捕まえられる。
身体は横から掻っ攫われたその勢いで初めは浮いていたが、やがてその何者かの本体に足をつけた。
視界が落ち着くと、目の前の景色は閃光を浴びるその直前へと戻っていた。
「ふう……お疲れ、アラタ」
「んぁ……? って、そうか。セツナ……すまねぇ、助かったよ」
どうやらセツナがキャッチしてくれたらしい。
俺は両腕をセツナの肩に回して引っかかっている状態だった。
「……やったな。お前のおかげで勝てたよ」
「それはこっちのセリフ。
ありがと、アラタ。単純かもしれないけど、なんだかすごくスッキリしてるんだ」
「そうか……そりゃあ良かった」
本当によかった……。
セツナも無事だし、突撃&奇襲の作戦は完璧に成功したみたいだ。
ただ、スッキリという割には彼女の横顔は何か言いたげである。
「どうしたセツナ……あ、もう結構きついか? 直ぐに港の方に戻って──」
「いや……落ち着いたなら、元の姿勢に戻って欲しいな、って……」
セツナはそう口を小さく動かして呟いた。
よくよく考えれば、俺はセツナに後ろから抱き付いた形になっているのである。
さらにセツナから言われて意識したせいか、なんだか腕の方にふんわりとした触感を感じる…………。
「うっお柔ら違う!!!!
ごめん!!!!」
「はぁ……このすけべ。
コレがなければなぁ……」
なんてね、と続けてセツナが笑う。
俺は直ぐさま体勢を戻し、2人乗りのスタイルになった。
港に戻るまでの数十秒、俺はセツナに悪行の数々を暴露される可能性を考えて若干焦っていた。
〇〇〇
船着場に着くと、ユディ含め印章士が数名と大勢の
何人かはすげぇ、とか運び屋がやったぞ! などと言っている。
つまり歓声が上がっているわけで。
「2人とも、お手柄ね!
流石カンメラの印章士!!!」
いの一番に駆け寄ったユディは満面の笑みを浮かべ俺たちの手を握った。
よく見れば彼女もその服は傷み顔は埃をかぶっている。
俺たちが来る前に戦闘していたかもしれないし、或いは観衆の周囲にある瓦礫や壊れた船の撤去・修繕をしていたのだろう。
なかなか肝っ玉があって真っ直ぐな人だ。ギルド員だが印章士としてもばりばり活躍できるんじゃないだろうか。
「ただいま、ユディさん。
セツナは帰ってきた、依頼は達成でいいんだよな?」
「もちろんよ! ありがとう」
ほっと胸を撫で下ろす。
が、それに続けてセツナが口を開く。
「あ、ユディさん実はね────」
あっやばいなコレ。言われる。
「────アラタと、組んで仕事がしたいんだ」
「へ?」
「!!! いいわよ!!!!」
間抜けな声をあげてしまった。
組むってことは、あれか。セツナと印章士としてパーティを組むってことか?
というかユディまでぱあっとした顔をしている。なんか凄い勢いで話進んでいるんじゃあないだろうか。
「セツナ、お前……」
「だめ?」
「いやダメじゃねぇしありがたいけど。
そんな直ぐ決めていいもんなのか?」
「言ったじゃん、持ってるものを全部やるって。
もし良ければ僕はアラタと組みたい。僕には、アラタの力が必要だしね」
「……そっか。
なら、承るぜ。ありがとうセツナ、よろしくな」
「あぁ! 任せといてくれよ。
絶対に役立ててみせる」
セツナはニッと笑う。なんだか安心してる自分がいて、気付いた。
セツナのその笑顔に、俺は意外と度胸を分けてもらっていたのかもしれない。
今度は彼女の方から差し出された手を、俺はしっかりと握り直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます