第十二話 王都散策
「驚いたっ!」
「まさかあのラルトが、人前で謝るなんて。これって前代未聞よジー君」
キャメロットの北側に位置し、露店が立ち並ぶ商店街を歩いている最中メルトが先程起こったいざこざを思い出しながら語っている。
「へぇ~それは凄いな」
最初の印象と今とではガラリと変わったとも言える。
「でもラルトはどうしてあんな奴等を取り巻きにしてるんだ?」
俺に先日の詫びを入れたラルトと違い、彼が謝った後も取り巻きは終始不機嫌な表情で俺を睨み付けてくるだけで立ち去っていったのであった。
「さぁ~ね。私自身彼のさっきの行動に驚いているのに、答えなんか知るわけないでしょ」
「残念……」
「それじゃ気を取り直して露店巡りをしましょっか」
道路の脇に無数に並ぶ露店では、料理に使う食材や調理済みの食べ物から日用雑貨、装飾品に至るまで数多くの品が売買されていた。
村では見たことがないその商品の多さに圧倒されつつに色々な物に目移りしながら、買い物を続ける。
とは言え商品を見るばかりで、未だ何一つ購入はしていなかった。
「もぉ~さっきから見てばっかりで、どうして何も買おうとしないの!」
俺が欲しいなぁと目を輝かせていたので、それを隣で見ていたメルトからしてみれば当然の反応だ。
「金が無いんだ。吟味するのは当たり前だ」
それは俺の切実な叫びだ。
正直ユタ村では、金は必要とせず村民同士の物交換などで生活を賄っており、当然金を持っていなかった。
俺は王都に来る道すがら、荷馬車の護衛や途中で見つけた動物の肉、薬草類を立ち寄った街で売って路銀の足しにしていたのである。
「でもそろそろお腹空いたから、どこかで昼食にしましょ」
「それもそうだな。おっならあそこに入ろうぜ」
真っ先に目についた道の先に見える店の看板を指差し、突き進む。
店の前まで来ると相当店の中は賑わっているのだろうことが、外にまで漏れでる声から推察出来る。
「楽しそうな店だな」
「うん………?この名前って待ってジー君」
「えっ」
「い、い、いらっしゃいませぇ~お客様」
「君は確か……」
メイド服で出迎えてくれたのは、今朝友人たちに無理矢理連行されていったメルトの学友であるテール=ライアンドだった。
その彼女はぎこちない笑顔で出迎え、彼女の表情は瞬く間に一気に青ざめていく。
「あちゃあ~やっぱりこの店だったか」
背後ではメルトが落胆の声を出し、額の部分に手をやって気まずそうな顔をしている。
すると青ざめきったテールは目を泳がせ何も言葉を発することはなく、口をパクパクさせ挙動不審な動きを見せたかと思うとすぐに仁王立ちしたまま地面に倒れてしまった。
「オーナぁ~例の子がまた倒れましたぁー」
フロア全体に聞こえる声でスタッフの一人が今俺の目の前で起きた惨状を伝聞すると、奥からこれまた王都に来てから知り合った人物が現れた。
「折角、慣れてきたのに今度はどうしたの」
「それが……」
自分を呼び出したスタッフに尋ねると、そのスタッフは答えを述べることなく代わりに目線をこちら側へと誘導させた。
そしてようやく向こうも俺たちの存在に気づく。
「やっほ~シャーリン」
何事も無かったかのようにメルトが挨拶をかます。
「合点がいったわ。そりゃーいきなり友人にこの服を着ているところを見られたら、テールなら卒倒するか」
「何一人で納得してるんですか。ほらっ他のお客様の迷惑にならないうちに運びますよ」
フロアで接客をしておりテールと同じ服を着ているサイカやニコンまでもがその場に近寄ると、倒れている友の足下を持つ。
そしてシャーリンが上半身を持ち上げるとあっという間にテールを奥へと連れていった。
「何だったんだ今の?」
「それは多分彼女たちが教えてくれるわ」
すると奥の部屋から顔だけを出したシャーリンが俺たちを招こうと手を動かすのを捉えた。
※※※
「それでどうしてわざわざこの店を選んだわけ?」
シャーリンが溜め息混じりに質問してくる。
「だってジー君が」
「俺のせいなのかこれ……」
「まぁいいわ。そろそろテールも休憩だったしこれはこれで。このあとも目一杯
悪代官が浮かべそうな悪い笑みでニヤニヤと笑うシャーリンが、俺には鬼畜な女に思えてしまう。
何故だろう気絶しているはずのテールが身震いしてように見えて、可哀想にさえ思えてままならなくなる。
だがそんなこと知る由もないオーナーは、笑いを止めようとはしなかった。
「二人とも私の店に来たからには、しっかりと料理の味を堪能して行ってね」
その後シャーリンはオーナーの立場を利用して陽当たりの良い場所を用意してくれた。
そしてそのテーブルに豪華な料理が運ばれてくる、それはクラリス伯爵家で出されてフルコースに負けずも劣らずといった代物だ。
ちなみに料理は見た目通りとっても美味しかった。
「ごちそうさまシャーリン」
「美味しかったでしょジーク君」
「あぁ美味かった」
「じゃあ支払いは、ロンゴ金貨五枚ね」
「……………………ない……」
「ないってまさかお金がとは言わないわよね」
※※※
料理はシャーリンが勝手に
しかしこの値段には胸がバクバクと動悸を打つそして財布を何度も確認してもお金が増える気配は微塵もない。
あるのは最後のロンゴ銀貨が四枚だけ。
この国の通貨は、ロンゴ銅貨百枚に対してロンゴ銀貨が一枚の価値を持ち、ロンゴ銀貨が十枚揃ってようやくロンゴ金貨一枚の価値を得る。
「そのまさかです」
「ごめんなさいジーク君、王都を守る騎士団に出頭するかこの店で働くか選びなさい」
その二択は俺にとって最悪の選択肢だ。
どちらの選択肢を選んだところで結果は見えているそれは円卓騎士団への入団の道は途絶えてしまうことを指す。
「プスっ、なぁ~に慌てているのよジー君」
「悪ふざけが過ぎたわごめんなさいね。安心しなさい、料理の値段はこれ全てでロンゴ銅貨五枚よ」
「本当かそれ」
「ええ本当よ。なにせこの店の謳い文句は安くて美味しいだもの」
※※※
無事俺の財布事情も解決し、店を後にして北の地区にある商店街を散策し続け辺りはすっかり夕暮れを迎え端々の建物に明かりが灯り始めた。
「最後にどこか寄りたいところある?」
「なら大墓地まで案内してくれないか」
「いいけどどうしてか尋ねても?」
「師匠の奥さんが眠っている墓があるそうだ」
「それって円卓騎士団に居たって人よね」
「ああ、実は言ってなかったが師匠はヴォーディガンとの内乱時騎士団から逃げ出した人なんだよ。だから墓地に来るのが場違いだって遠ざけていたんだよあの人」
「ヴォーディガンの内乱はそれは悲惨だったって私は聞いている。そして人にはそれぞれ気持ちがある、それを私は否定するつもりはない」
言葉にせずとも言いたいことは分かる。
たとえそれが臆病者のする行為だとしても……。だけどそれは違うと物申したい。
師匠が戦場から去ったのには、託された想いがあったからだとただそれを俺の口から言うのは無粋極まりないので控えるとしよう。
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