第39話『独裁政治の始まり』
1601年となり、新年の大坂城には京の公家たちが続々と大挙して下向し、俺へ参賀をしにきた。
それと同じくして、朝廷の使者が参った。
「権大納言の任官しかと拝命致します」
俺は権中納言から権大納言へと昇進し、着々と権威は摂関家に似合ったものへとなった。
1602年となり、繋ぎの関白に就任する為にと動き、懇意としていた小早川秀秋が、大坂の屋敷にて体調を崩したまま死亡してしまった。
若くしてアルコール依存症となっていたことが発端となった。秀秋には嫡子が不在であった。尾張という大きすぎる遺領をどうするべきかということで、激論が起こった。
その頃には不穏な動きを見せていた三河狸は少しずつ力を取り戻していた。
後嗣がいないが為に尾張の小早川が改易となることを恐れ、俺は輝元や秀家に掛け合い存続に奔走した。
しかし、尾張小早川は後嗣不在で改易処分となり、尾張57万石には対外政策で功績を挙げたという文句で三河狸の九男義直が入ってしまった。
1603年となり、俺の危惧していた三河狸の征夷大将軍就任はなかった。俺はほっと一息安堵したのだが、直後秀秋の後を追う様に三成が病死した。
三成は死ぬ直前に、いつか豊家に仇なすであろう家康、秀忠父子の暗殺を、毛利輝元や上杉景勝、宇喜多秀家らと共謀して目論んだが、三成の死後実行前に露見してしまい失敗してしまった。
これにより、毛利、上杉、宇喜多ら他関係者は減封処分となり、政敵の力を削いだ三河狸は、この頃から明らかに独裁的な政治を行い始めた。
大きく分けて二つ独裁的なことが挙げられる。
一つ目が江戸城の天下普請である。この江戸城の普請に関して、完全に三河狸主導とさせない為に、俺の直臣を奉行として指揮しさせた。どうにか一定の影響力を保ったが、恐らく意味はないと思われるが……
そして二つ目が朝鮮との国交回復である。
ある日対馬を治める
「対馬守よ。長らく絶えている朝鮮との国交を回復せよ」
「ッ……内府様の御命令しかと受けましてございます」
対馬を治める宗氏にとって之は願ってもない言葉であった。太閤秀吉の朝鮮出兵により、朝鮮との交易を断たれた宗氏は困窮を極めていた。
義智は直ぐにこれまで私的に送り続けていた使者とは異なる正式な使者を送った。
朝鮮では、流石に正式な使者を無碍にすることができず、対応が迫られていた。
「この国書の申す通り、一体信じて良いのでしょうか?」
「一度使者を送り、真偽を確かめる他ないだろう」
暫くして朝鮮からの使者が、対馬宗氏の下へと訪れた。
「朝鮮国王は、其方の国交回復の本気度をお疑いになられております。それが明らかとならぬうちは……」
「ならば!お会いして頂きたいお方がおられる!」
義智は直ぐ様伏見城の徳川家康と、朝鮮使者の謁見を実現させた。
「我は太閤殿下の朝鮮出兵には反対し続けており、朝鮮出兵には無関係である。秀頼公の後見である我は朝鮮との国交回復を望んであるのだ」
「なるほどその言葉、国王にお伝えいたします」
朝鮮では、家康の本気度を信じるべきとの声が大きくなりつつあった。それは捕虜を取り戻し、歴代国王墓を荒らした犯人を逮捕する為でもあった。
朝鮮は対馬宗氏に対して、『先の戦の謝罪を日本が先に行うこと、捕虜の返還、歴代国王墓を荒らした犯人の引き渡し』を条件とした要求を突きつけた。
義智は無関係と主張する三河狸に謝罪させる訳にもいかず、されどこれ以上交易が絶たれるのも困る為に、国書偽造を断行した。偽の国書には『日本国王 源家康』と記した。
歴代国王墓を荒らした犯人は、対馬で捕らえていた犯罪者を荒らした犯人に仕立て上げ朝鮮に送還した。
朝鮮国内では、この国書の真偽や引き渡された犯罪者が本物なのかという論争が起こったが、国交回復や捕虜を取り戻す大義名分を得て、返書を持った使者を送った。
義智はその国書を見て、対応に追われた。国書には『奉還』と記されていたのだ。奉還とは返事という意味で、これでは家康に国書偽造がバレかねなかった。
義智は再び国書偽造を決意した。奉還は奉書と改めるなど、様々な部分を改竄した。しかし、簡単に国書偽造は出来なかった。いや正確には、偽造したが入れ替えることが叶わなかったと言うべきだろう。
朝鮮の国書は厳重に朝鮮側が管理しており、容易に入れ替えることが出来なかったのである。
義智は朝鮮の使者と共に江戸城へと向かうが、国書の中身が依然そのままであった。遂にその機会が訪れた。厳重に管理されていた国書は、江戸城の一室に置かれた。それを義智の家臣柳川智永が夜間忍び込み、どうにか咄嗟のところで入れ替えたのである。
こうして、1605年遂に慶長条約が締結され、国交回復がなされることとなる。
このまま征夷大将軍に就く事もないだろうと思っていたのだが、俺の元服僅か二年前の1605年に朝鮮との国交回復の功績として、征夷大将軍に三河狸が任命されてしまった。
俺は三河狸が征夷大将軍に任官し、同時に右大臣昇進をしたことにより、欠員補充の為内大臣へと昇進した。
勿論策を多く打ったものの有効打はなく、豊家の中でも、『どうせ秀頼様に将軍職を譲られるのでしょう』と楽観的な考えが蔓延していた。
俺は爺という有力な後ろ盾を失い、家康を除く五大老も国力を徐々に失うなど、三河狸の勢いは止まることは叶わなかった。
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