第35話『関ヶ原の戦い〜決着〜』
均衡状態は必ず破れる。南宮山の宇喜多副隊が秀忠本陣に迫ったことにより、秀忠はある決断を迫られていた。
「筑前中納言は寝返らなかったか……」
「小早川勢は戦端より、間もなく本多美濃守へ攻勢に出た模様にございます。」
「如何するか……」
「私に妙案が一つ……」
秀忠は小早川秀秋の調略に失敗した為に、正信の意見を取り入れ、軍勢を一極集中させ、笹尾山方面へ積極的な攻撃を行わせたのであった。
先ず酒井家次隊二千五百が黄母衣衆や安国寺恵瓊といった面々総勢六千程に突撃した。無論酒井隊のみでは突破は叶わないものの、続々と後方より中央部に配置されていた、京極高知、金森長近等々といった諸将ら四千が加わった。
一時間にも及ぶ攻防戦が繰り広げられるなか更に秀忠本隊が前線へと上がった。其れに依り手薄であった西軍方笹尾山方面が突破されるという事態が発生してしまった。
天満山に籠る宇喜多秀家は焦っていた。
「秀忠め……まさか全軍を笹尾山に集中させるとは……笹尾山の被害状況は!?」
「はッ!申し上げます!安国寺恵瓊様ら凡そ六千は敵の攻撃を抑えていたものの敢えなく壊滅!現在は生死不明であり、続々と撤退されております!」
「
「田中・仙石勢といった面々に抑えられ迎えなかった模様にございます!」
「
「その様に聞いてございます!『福島・本多勢らの勢いが凄まじく、とてもではないが進めぬ』とのこと……」
「全軍を進めよ。我らは秀忠本陣目掛け突撃を行う!」
「殿!?如何して左様な!」
「決して悪手ではない……全登らも迫っておろう。さすれば我ら本隊と、全登の副隊を以て挟撃することも叶おう。今一度命ず。全軍狙うは秀忠が首ただ一つ!駆けよ!」
「応ッ!!」
一方で秀忠本隊では、
「正信……本当に宇喜多は我らに突撃してくるか……」
「間違いなくしてくる筈にございます。今回の策は山内、池田、富田らの活躍にかかっております……彼らが早急に壊滅し、我らに迫れば間違いなく挟撃され、撤退することになりましょう。しかし、彼らが長く耐える事が出来れば、逆に宇喜多本隊を壊滅させる事が叶いましょう」
「そうなると良いが……」
秀家は正信の手の上で踊らされてしまっていた。しかし、其れも仕方がなかった。本来の作戦で行けば、副隊が秀忠の退路を断ちそのまま本陣へと迫る。
退路を断たれている秀忠は、仕方無しに殿を残し伊吹山方面へ逃亡。戦後逃亡した秀忠を確保した後に京にて打首とする算段であった。
その為に南宮山には確実に行える様に兵の多くを割いていた。だが山内、池田、富田などに阻まれた挙句、手薄であった笹尾山方面を突破されるという事態になってしまったのである。
こうして突撃を敢行した宇喜多本隊であるが、実に善戦をした。地の利というものに加えて、秀忠の首という明確な目標のあった宇喜多本隊の士気は高く、松尾山の小早川が福島、本多などを蹴散らし援軍として来るまでによく耐えた。
しかしながら、既に手遅れであった。丹羽隊などの諸将らの撤退。想像以上の宇喜多副隊の疲弊と被害。秀秋が秀家に合流した際には既に西軍は圧倒的な戦力差を付けていた筈が、勝機も見いだせぬ程にボロボロの状態であった。
「金吾!よく来てくれた!秀忠の首を!」
「秀家!最早負け戦!ここは引くほかあるまい!」
「……私は何を間違えた……間違いなどない!敵の勢いが凄まじかっただけ、引いて立て直せ!そうすれば勝機が見出せよう!」
「そうであるな……」
秀家は幾ら利家が亡くなり、士気が減退しているとはいえ、圧倒的な兵力差があり勝ち戦だと意気込んでいたが、負け戦となって意気消沈した秀家は、已む無く秀秋の助けを得て長浜城にまで撤退した。
宇喜多副隊の明石全登や織田秀雄らは関ヶ原から近い大垣城に撤退。安国寺恵瓊らは佐和山城に逃げ込んだ。
当然西軍が勝つと予想された関ヶ原の戦いは、呆気なく東軍方秀忠の勝利に終わった。
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