第29話『大井川の戦い〜終盤と潰走〜』
戦も中頃に差し掛かり、日も次第に昇り十時頃となっただろうか。その頃になると西軍の攻勢は次第に強まり、東軍各隊が敗走するという事が、見られるようになった。
魚鱗の陣も崩れかけ、陣の中程に兵を構えた小笠原隊が、必死に三成隊島左近らを抑える中、魚鱗の陣前方では、細川忠興隊の猛攻が仕掛けられており、そうした最中遂に前方は総崩れとなる
〜島津本陣〜
「遂に徳川は潰走すっ者んおっどん、叔父上我らはいつまでこうしちょるんやろう?」
「時は来た、豊久よ兵を進めや。そうして我ら薩摩隼人の力見せてやれ」
「そん御言葉を待っちょった。全軍進め!忠吉ん首持って参れ!」
戦況を見つめるだけであった島津隊は兵を進め、遂に前線に到達した。
鬼島津と恐れられ、史実関ヶ原の戦いでは『捨て奸』の戦法を用い、犠牲を恐れずに家康本陣に迄迫り、多大な犠牲を払いながらも、退却した島津が戦いに参加したのだ。これは最早戦いは決したと言っても過言ではなかった。
島津の参加に更に勢い付いたを西軍その攻勢を強めた。東軍後方では井伊直政、本多忠勝らが、忠吉を守るべく防御により力を入れて耐え忍ぶ格好であった。
正午に差し掛かる頃には、東軍方の諸侯の一部が独断で撤退を強行し始めるなど東軍は更に苦戦を強いられた。
山口宗永や五奉行の一人長束正家を討ち取るなど東軍も善戦を見せたものの、小笠原隊の壊滅により本陣を残して残りは総崩れ、戦勝は無いに等しくなり、初陣の忠吉にも酷な選択が迫られることとなる。
忠吉本陣に井伊直政、本多忠勝が参り、撤退を促した。しかし既に戦況は西軍に傾き、忠吉本陣近く迄西軍の軍勢が迫っており、容易に撤退は出来ない状態である。
「私が撤退しようにも……誰が殿を務めねばなるまい。私は無様に撤退するくらいであれば、勇敢に死して終わりたい……」
「忠吉!何を言っておる!逃げよ!逃げて逃げて逃げられよ!どれだけ無様を晒そうとも逃げよ!生きていれば機会は訪れる!」
忠勝が忠吉に喝を入れると、忠吉は薄っすら目に涙を浮かべた。
そんな忠吉を尻目に、忠勝は「我らが殿を務めまする。必ずや生きて戻る故、忠吉様も生きられよ」と言い残し、陣から出て行った。
直政もまた「忠吉様、必ずや生きて会いましょうぞ」と言い残し、赤備えを従え戦場に再び向かった。
忠吉は一目散に駿府城に向けて撤退をした。しかし、その時魔の手が迫っていた。山岳地帯に潜んでいた毛利秀元隊が斜面を駆け下り、逃げる忠吉に向けて一直線に攻撃を仕掛けたのである。
忠吉の手勢の一部が迎撃するものの、勢いのついた秀元隊を止めるには至らず、次々とその数を減らしていった。
手勢が五十を切った忠吉は遂に山へと逃げ込んだ。大井川から東部二里半の場所であった。
「獣道を通り東へ駿府を目指す。皆済まないが堪えて欲しい」
「はッ!!皆の者殿に付き従う心構え、必ずや駿府へ帰りましょうぞ!」
「あぁ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます