第28話『大井川の戦い〜序盤〜』

江戸征伐本隊(東海道)は鳴海城、刈屋城、岡崎城、西尾城、深溝城、形原城、三河亀山城、吉田城の順に、籠城する城を攻め落とし三河を平定した。


これにかかったのは僅か一月であった。というのも多くの城で、美濃国岩村城の秀忠の下へ参陣するために、城を守るはずであった多くの兵が其方へと向かっており、城を守るべき必要な兵が殆どいなかった為であった。


数日の間籠城すると、速やかに開城し降伏した。これは形式上戦い守ったということを家康に示す為であり、戦後家康が勝った場合には戦ったのだから本領安堵をと。


また万が一戦後西軍が勝った場合に改易はされないと言質を取ってのことであった。


一方で甲斐国平定に一月を要した忠吉軍は、一旦軍勢を新府城に纏めた。


これは戦火で荒廃した甲府城に兵を纏めるよりも、一度荒廃したものの甲府城攻めの橋頭堡とする為に修繕された新府城の方が、何かと勝手が良かったからであった。


新府城に最低限甲斐国を治める為の兵を残し、忠吉一行は駿府城へ立ち寄り、西を目指した。


そして大井川にて、江戸征伐本隊と忠吉軍は相対した。


その決戦前、忠吉軍に島左近の提案により奇襲が仕掛けられ、十数人が討ち取られるなど忠吉軍に動揺が走った。


この一戦に於ける江戸征伐本隊(前田方)の総大将は毛利輝元であり、徳川方の総大将は松平忠吉であった。


未明、大井川の島田の平地部に両軍は兵を並べた。

西軍は、丘の尾根に沿って右翼側の兵を並べ、現在の東海道本線金谷駅付近に本陣を敷き、平地部に左翼側の兵を並べ、更に川を越えた側の山岳地帯に伏兵を忍ばせた形の鶴翼の陣の戦型をとった。


一方で東軍は、大井川に扇形に迫り出した平地部に全軍を置き、魚鱗の陣の戦型をとった。


〜西軍本陣〜


「申し上げます!見廻り隊より敵方、対岸の平地部に魚鱗の陣を敷いた模様です!」


「あい分かった。各将に其れを伝え、開戦に備えよとお伝えせよ」


「はっ!」


〜吉継本陣〜


吉継の本陣は右翼側最前線に位置しており、三成本陣と距離が程近い場所であった。


「三成。この戦負けは許されぬぞ」


「あぁ間違いなく。伏兵の秀元殿がこの戦の鍵だろう」


「先鋒は長宗我部殿がお務めなさる。開戦後我らは川を越え、攻撃を仕掛ける。三成は戦況を見極め、動け」


「言われずとも」


〜徳川本陣〜


「忠吉様!この直政、見事先鋒の役果たして見せましょう」


「この戦我ら徳川の命運を担うもの負けは許されぬ!全軍目指すは輝元が首!我が前に持って参るのだ!」


「応ッ!!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


日が少しづつ昇り始め、風が弱く吹く中で井伊直政隊は十月初頭水温も冷たくなり始めた中、川を越えた。


何分時が過ぎたのだろう。直政隊が遂に川を越え終わり、西軍左翼側に向けて突撃を仕掛けた。


左翼側最前線は長宗我部盛親隊大凡七千であった。


「我ら長宗我部が力、徳川赤備えに思い知らせてくれよう。皆の者かかれぇ!!」


「応っ!!!!」


盛親の一命により、一領具足らは火縄銃で引きつけてから攻撃した後、果敢に直政隊へ突入した。


こうして戦いの火蓋は切られた。


続いて盛親隊の交戦を聞いた大谷吉継隊が、軍勢を進め、川を超えをしている本多隊に脇より奇襲。


迎撃が主であり、積極攻撃は仕掛けてこないだろうと予想していた東軍 本多隊を始めとした部隊は、これにより左側は大混乱に陥った。


西軍が善戦を繰り広げる中、やはり島津隊は動かなかった。島津本陣にて義弘に対し、豊久は苦言した。


「叔父上!我らも兵を進めもんそぞ!」


「無理に兵を消耗すっことはなか。豊久よ今はじっと待つ時や」


豊久はそう言われると、その後話すことなくじっと戦況を見つめた。


暫くして、盛親隊に攻勢した直政隊は、後方の部隊の到着を盛親隊の猛攻を凌ぎながら耐えていた。


「何故忠勝殿は参られぬのだ!」


「申し上げます!本多隊が川越の最中、大谷勢の攻勢に会い足止めされている模様にございます!!」


「……仕方あるまい……此処は退く。本多隊の救援に迎え!」


直政隊は犠牲を払いながらも最前線を離脱、本多隊の救援に向かい合流したその時には、既に大谷隊は撤退した後であった。


大井川の戦いの序盤は西軍優位に戦いを進めた。

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