第23話『第二次上田合戦〜昌幸の罠〜』
信繁が一隊を率いて現れ、それと同時に目の前の信繁隊より斉射、無数の矢が降り注いだ。
いま一歩というところ迄、押し寄せた徳川勢は前方後方からの狙撃によって、指揮系統が完全に混乱してしまい、
牧野、杉浦の「目の前の敵勢は少数派!!恐るるな!突撃ぃぃぃいいい!」と叫んだときには、もう既に手遅れであった。
多くの兵は、不自然に兵が配置されていない通りを通って軒並み逃げていたのである。勿論のこと、兵力を集中させる為に殲滅を諦めた可能性もあるだろう……しかしここ上田は表裏比興者の真田昌幸が守る城である。罠が仕掛けられていないわけがない。
何故一つの通りにだけ兵を配置しなかったのか……其れは敵兵を死兵にしない為であった。死兵になれば其れこそ信繁隊が壊滅する可能性があった。
退路を失った兵は火事場の馬鹿力、予想にも得ない力を得る。今回の作戦は戊辰戦争のうちの一戦である上野戦争に酷似している。
寛永寺に籠る彰義隊らなどが退路が残っていた為に、死兵とならず、其ればかりかその退路より逃げ出した者も多かった。新政府軍はあまり多くの兵を失うことなしに、大勝したのである。
勿論のこと、明治維新より二百年以上も前に生きる昌幸が知る由はない。しかし、表裏比興者の真田安房守昌幸は稀代の策略家である。最善の手が容易に打てたのである。
ここから、真田勢は一気に攻撃を仕掛けた。
敗走する徳川勢は、家屋に潜んでいた伏兵からの矢や鉛玉で犠牲を払いながらも、安全地帯に向けて、唯ひたすらに逃げていた。
後方からは馬に跨る信繁が鬼神かの様に、向かってくる。伏兵などが合流して、ますます信繁の軍勢は勢力を増していた。
「最早ここまでか……」と牧野、杉浦は死を覚悟した。当初この逃げ通るこの通りは、確実に昌幸の罠であると理解していた。敢えて信繁隊に突撃して逃げ延びようとしたのは、この為であった。
しかし、雑兵にその様なことが、理解出来るわけがない。指揮官の命令に叛き、ただ生存本能に従い、まんまと罠へと掛かったのである。
落とし穴に仕掛けられた竹によって人が死に、何処からか降り注いだ鉛玉や多数の矢……其の実態は其れ程多くはない。しかし、恐い相手は実態以上にとても大きく感じられる。
ここから真田勢が遂に徳川勢を殲滅するのかと思いきや、信繁は徳川勢を城下の彼方へ追い退けるや、「引きぞ!」と兵を纏めて城内へ引き戻って行った。
牧野、杉浦隊を筆頭に攻め込んだ軍勢は当初の大凡3/4に迄減っていた。この日、東山道勢は多大の犠牲を払いながらも、上田城を落とすことが叶わなかった。其ればかりか、誰が生きているのかすら分からない程の大敗であった。
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遂にストックはゼロです。止まったらごめんなさい。
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