第19話『第二次上田合戦〜降伏勧告〜』

数十騎余の騎兵に守られつつ、信幸、忠政一向は上田城近郊に訪れた。その後城内に対して『秀忠の御言葉をお伝えする故、使者を明日あすの明朝、国分寺にまで送られよ』という文を送った。


昌幸・信繁父子は顔を見合わせた。


「父上どういたしましょうか?伊勢崎城に今宵の夜入城致しますか?」


「いいや、その必要はない。あの小童を一つ遊んでやる」


「叔父上は兄上の方に付くようです」


「構わんわ。万が一あの狸が勝った時には、源三郎を支える者が必要であるしの」


「ではこの使者誰を寄越しましょう」


「儂自ら行く。源二郎は籠城の備えをせよ」


「なんと……かしこまりました」




一夜が明けて翌日……




父子は国分寺へと二十騎余の護衛を引き連れ、日の上がりはじめた頃に到着した。


国分寺は現代でこそ立派な様相であるが、今は茅葺屋根であった。


本多忠政、真田信幸を迎え入れる準備を整えた昌幸は暫しの時が経って、二人と相対した。


「父上」


「なんでござろう?」


「今我らが互いに無益な戦をしても仕方のなきこと……速やかに開城なされて下さい」


「それは中々難しい……」


「潔く開城を!!」


「我らが城を明け渡せばなんと申すか?利点もなくして、明け渡す気にはの……」


「安房守殿……我らとしては今開城致されれば、内府様に敵対したことを不問と致す」


「うむぅ……」


ぐぬぬ……と忠政の口から言葉が漏れ出た。数十秒考えた後、「城を開け渡せば内府様が勝たれた後、最大限の便宜を……上田一帯の安堵は必ず……」と苦しそうな表情で言った。


之は小諸を発つ前に話し合いによって決定していたものだ。


本来行いたかったのは、不問とした後に、『不問とはしたが、昌幸に詰めより、信幸に家督を譲らせ、その後数年してから信幸を何処かは転封させる』という算段であった


しかしながら昌幸が、不問だけでは首を縦に振らなかった場合には、上田城一帯安堵で事を済ますつもりであったのだ。こうすれば少なくとも、沼田城は手中に収めることが可能であると、徳川勢は考えていたのだ。


言葉を聞いた昌幸は、すぐに口を開いた。


「それは、それはかたじけなし」


昌幸が忠政や信幸の予想反した為に、二人は数秒間の固まっていた。


「折角源三郎が参ったのですから、之を無碍には出来ぬものです」


「ならば、上田明け渡すと……」


忠政は興奮冷めやらぬ様子で身を乗り出したのであった。昌幸は内心で『この童はちょろいな』と嘲笑っていた。


「勿論に御座る。これならば源三郎の面目も立つことで……」


「何と……では真に城を……」


「ええ、上田を明け渡すこと、承知致した」


「そ、そりゃ、真か……真に御座るか!?」


「ええ、源三郎が使者に参られた故に……なれど、いささか、待っていただきたい」


昌幸の最後の言葉に、忠政の顔に緊張した表情が再び現れた。


「それがしも源二郎も、上田城を敵勢、之を攻め来ららば、必ずや蹴散らしてくれようと存じおりました……」


「ンッ!?」


「それ故に、上田城に籠り、潔く城を枕に戦うつもりなれば、城の内外がいと見苦しゅうござる」


「う、うむ……」


「何日もの汚れ放題のままにしておいた故」


「な、なるほど……伊豆守は反対されるか?」


この時信幸の頭の中には、父の今後取るであろう策略が、思い浮かんでいた。どの道裏切るのであると……しかし此処で『父の申す事は嘘である』と断定する事は得策ではないと考えてしまった。


「よろしいかと」


こうして会議は終わった。満足気に秀忠の下へと帰参する忠政と裏腹に、信幸の表情は少し陰りがあった。


一方で昌幸はというと、忠政を嘲笑うかの様な笑みを浮かべていた。

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