第16話『田辺城開城』

京で講和の勅命の勅使を向かわせることが決まった頃に、茂勝は激怒していた。


「何故だ!何故四日どころか、一週間経っても落ちぬのだ!無駄に兵と火薬を消耗するだけ……総攻撃など始めからせねば良かったであろうに」


「当代一の文化人でもある幽斎殿を歌道の師として仰いでいる諸将も少なくない。攻撃に対して積極性を欠いているのであろう」


「木下殿既に江戸には徳川についた諸将が兵を引き連れ参上していると聞く。いつ甲斐、駿河に対して攻撃が始まるかすら分からぬ今、斯様な城に傾倒する余裕はない!」


「されど後もう間も無くすれば落ちよう。兵力差は隔絶している。落ちるのも時間の問題よ」


「……左様であるな」


火薬の音が反響し鳴り響く中、茂勝は呟いた。


一方で城内


「父上いつ落城してもおかしくなき状況……このまま城を枕に果てるのですか?」


「当然よ。儂としても武士の誇りがあるのじゃ」


「叔父上、以前八条宮殿下より、使者があったとのこと。開城を求めるの使者ではなかったのですか?」


「そうであったが、謝絶し『古今集証明状』を八条宮殿下に、『源氏抄』と『二十一代和歌集』を朝廷に献上致した」


「既に父上は御心をお決めになられたのですか……」


「「それならば我等もお供致しましょう」」


決意を新たにした田辺城に籠る幽斎は更に抵抗を強めることとなる。


退路を完全に断ち、死兵となった者ほど怖い者は存在しないだろう。なにせ彼等は死を恐れることがない。


こうした決死の抵抗は、着実に攻軍側の戦力を削っていっていた。


そんな最中に攻撃が突然にぴたりと止んだ。


「何故敵は攻めて来ぬ」


「火薬でも尽きたのでしょうか?父上」


「そんな訳あるまい。火薬が尽きるなど戦下手にも程がある」


「叔父上今が体制を整え直す絶好の機会かと……兵を天守に集中させ防衛致しましょう」


「ーー申し上げます!!」


「何事だ!その焦り様余程の事であるのだな!」


「はっ 幸隆様左様にございます。幽斎様……京より勅使が参っております……如何致しましょうか?」


「勅使……帝か。御通しせよ」


場所は移って大広間。


上座に座るのは勅使が一人三条西実枝であった。

通勝と光広は西軍へ赴いており、田辺城内には実枝のみが入城していた。


幽斎は下座に座ると一礼し、実枝に向かった。


「実枝様、遠く京よりよくぞお越しくださいました。此度は如何様で……」


「此度の田辺城の戦いに於いて、幽斎玄旨は文武の達人にて、ことに古今伝授を伝えられた神道歌道の国師である。もし幽斎が落命することになれば、世にこれを伝える者が途絶えてしまう。故に朕は即時講和を勅命される……これが陛下の御言葉で有らせられる」


その直後、幽斎は何秒か思案し、その場の空気は独特の香りを醸し出していた。


「ッ--はっかしこまりました。陛下の勅命とあらば、この幽斎考えを改めて、講和致しましょうぞ」


「ではその様に頼むぞ」


同刻より少し前の頃……西軍本陣にて


「申し上げます!京より勅使が参って御られます!」


「何!?京より……御通しせよ」


本陣にて諸将が下座に着席する中、通勝と光広が現れ、諸将は仰々しく礼をした。シーンと静かになると茂勝が真っ先に口を開いた。


「ようこそ、此度は京よりお越し下さいました。しかし如何な御入用で?」


「此度の田辺城の戦いに於いて、陛下より勅命を賜り、その勅使として参った。

幽斎玄旨は文武の達人にて、ことに古今伝授を伝えられた神道歌道の国師である。もし幽斎が落命することになれば、世にこれを伝える者が途絶えてしまう。故に朕は即時講和を勅命される……これが陛下の御言葉で有らせられる」


「なんと……城を攻めあぐねていた次第……喜んで講和致しましょうぞ」


「ではその様に」


この日より三日間に渡って講和の話し合いが行われた。当初の話合いは幽斎、幸隆、光行らが大坂へ連行というものであった。しかし之を幽斎は拒絶した。


その為に難航したものの、勅命による講和であった為に両軍共に譲歩をしていた。


結果として田辺城は開城をして引き渡し、幽斎は丹波亀山城に入城すること。幽斎、幸隆、光行を戦後に罰せぬことが確約された。


こうして二週間以上に渡る田辺城の戦いは終結した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



史実に沿って書いていたりするので、田辺城の戦いというものはきちんと存在します。ただ内容に関しては違う部分が多々あったりと……

拙作を通して、知らない城攻めとかに興味を持って貰えると幸いですね……

これからもよろしくお願いします ( *・ω・)*_ _))ペコリン

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