第14話『伏見城の戦い〜終〜』

家忠が討たれてより間もなく、近正はといえば……


「家忠殿は討たれたか……皆の者気を引き締めよ!この三の丸の最後の砦は我等のみである!」


近正は家忠よりも長く戦い続けていた。迫る敵を狭い場所で一対一に近い方に持ち込み、各個殲滅を行っていたからに他ならない。


しかし其れにも限界があった。遂に兵が二十名程にまで減ってしまっていたからである。


「うわぁぁぁ」や「ぐはっ……」、「うぐっ……」など味方兵のやられる声が響いていた。


迫る雑兵を斬り殺していると、頬を鉛玉が掠った。味方兵はどうやら既にやられているらしく、五名に迄減っていた。


周囲を見ると鉄砲を持つ者に囲われていた。狭く近づくのは困難と……しかしその様な場所では鉄砲は有効な手段であった。


近正は味方兵と共に最後の攻撃を仕掛けた。


「一人残らず皆斬り殺してくれよう!」


ババババッン!!


銃声が鳴り響いたのと同時に、近正は野に伏した。朦朧とする意識の中、雑兵が近づいてくるのが見られた。


首元に冷たい感触がしてから、首に激痛が走った。そうして身体と頭が離れる様な感覚を覚え、意識を無くした。


松平近正……享年52





三の丸が落ちた頃。同様に二の丸もまた落ちる寸前となっていた。大将級の者は本丸へと退却し、雑兵のみが二の丸にて最後の抵抗を行っていた。


もちろんその様な軍勢では長時間の抵抗は期待されず、三の丸が落ちてより二時間後完全に二の丸は制圧されたのである。




二の丸、三の丸が落ちた日より、日が回って未明の朝、一斉に銃撃が敢行された。本丸の一部からは出火し、最早落城は時間の問題であった。


退却してきた上林竹庵、内藤家長らが時間を稼いでいた。


「この家長に続け!一刻でも長く抵抗するのだ!」


家長は最前線で槍を振るい、戦い続けた。それでも敵の勢いは止まることなく、一身に多くの鉛玉や矢を受けた。最後の抵抗か。ボロボロとなった身体を動かし、雑兵へと突撃した。その最中眉間に銃弾が当たった。


「無念かな。家康様……」


最後まで言うことなくこの世を去った。

内藤家長……享年54




本丸の元忠は奮戦して三度も敵を追い返していた。しかし彼の周りにはわずか十余人しか残ってはいない。そんな中、遂に元忠の最期の時が来た。


元忠大声を張り上げ、『一人にても敵を討て死するぞ、士の志なれ。吾三方ヶ原にて足に手負ひ行歩心にまかさざれども、逃んとせばこそ足も頼まめ。いざ最後の軍せよ』と下々に命を下した。


一同は勇敢に戦い、そして一人も残らず討死した。


元忠は槍を片手に雑兵を倒していた。身体が不自由となりながらも、武術には長けていたのである。しかしその様な身体が長くの間持つことはなく……


元忠戦い疲れて玄関に腰をかけていた。其処へ鈴木重朝(雑賀孫一)が近づいてきた。


重朝に気が付いた、元忠は『吾は鳥居彦右衛門よ。首取て功名にせよ』と武具を脱ぎ、そうして抜刀した脇差を身体の正面に置いた。


重朝は側へとより、切腹をする元忠の介錯をつとめた。元忠が刃を腹へと突き立てるのと同時に、重朝ら刀を振り下ろした。


元忠の首の皮一枚程を残して切ると、頭の重みでそのまま下へと落ちた。三河武士の鏡と評されることとなる元忠はこうして散った。


鳥居元忠……享年62


彼の首は首は大坂城京橋口に晒された。また重朝へと渡った防具は嫡男忠政へと、戦後に返還されることとなったのは別の話である。

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