『関ヶ原・大井川合戦前哨戦』

第11話『厳命に叛き者』

このまま史実とは違って平穏な日々が訪れると思いきや、間もなく三河狸は亡き父の法度を、俺の厳命した御掟、御掟追加を破った。


勝手に合議による合意を得ないまま、娘を全て家康の養女とし、大名家同士の婚約を纏めたのである。


父の死後、内大臣の三河狸は官位で最高位となってしまった。また父から俺の後見人を指名されていた為調子に乗った乗ったのであろう。


伊達政宗の娘の五朗八姫と家康の息子の松平忠輝や松平康元の娘と福島正則の養子の福島正之。


また蜂須賀至鎮はちすかよししげと三河狸の外孫で養女に当たる小笠原秀政の娘。


更に三河狸の叔父の水野忠重の娘と加藤清正。


更に更に三河狸の姪で養女にあたる保科政直の娘の栄姫と黒田長政……と無断で史実通りに婚姻政策を進めたのである。年賀の礼時に、釘を刺したにもかかわらず……


また三河狸は、父の亡くなる少し前から、細川忠興や島津義弘、増田長盛らの屋敷にも頻繁に訪問していたことが後から分かった。やはり反骨心はそうそう折れないらしい。


俺はふと思った。この一連の件であの三河狸を排除するチャンスであるのではないかと……そしてまるで追い風が吹くかの様に爺なども、之に反発していた。


直ぐさま行動へと移した。先ず傅役の爺に対して、『内府は余の厳命に叛いたから、出頭させ、しかと対処してね』と……『かしこまりました』と爺は少し神妙な面持ちで去っていった。


こうして政権運営をめぐりて、爺や三成らより「専横」と批判を受け、三河狸に対して三老中の堀尾吉晴らが問罪使として派遣された。


「内府殿御掟を破った件、政権の専横に関して出頭の御沙汰が……」


「この家康に謀叛の疑いがあるとでも言いたいのか!?」


三河狸は吉晴に詰め寄り、吉晴はタジタジとなってしまった。


「しかしながら……秀頼様の下知を、御掟をお破りな……」


「もう良い!はよ帰らぬか!」


そう言って脇差に手を伸ばした。吉晴はこれ以上三河狸を出頭させるのを諦め、追い返されることとなった。


最早対立やむ無しという事態に陥り、暫く経った日の夜、諸大名が爺と三河狸の両屋敷に集結する騒ぎとなった。爺に『爺の力で家康から守ってほしい』と強請ったのが功を奏したのか上手くいっている。


利家の下には、毛利輝元・上杉景勝・宇喜多秀家の三大老に五奉行の石田三成また史実では後の関ヶ原の戦いで、東軍についた武断派の細川忠興、浅野幸政、加藤清正、加藤嘉明よしあきら集った。


秀頼の厳命に叛いた家康に妥協するつもりはない利家と元凶の家康との溝が埋まることはなく、反家康方と家康方との全面戦争は避けられないものとなっていった。

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