第8話『醍醐の花見〜急〜』
五番目の茶室は前田玄以の出店の茶屋である。
彼は五奉行の一人で、秀吉没後は豊臣政権下の内部抗争の沈静化に尽力し、三河狸の会津征伐に反対した。三成が大坂で挙兵すると西軍に加担、家康討伐の弾劾状に署名した一方で、三河狸に挙兵を知らせるなど内通行為も行った。此処は評価を下げるポイントである。秀頼の後見人を申し出て大坂に残り、病気を理由に最後まで出陣しなかった。これらにより合戦後は丹波亀山の本領を安堵された者である。
茶屋というよりもどちらかといえば、お座敷もあり、料亭の様相をしていた。
「どうぞ上へ」と言われ上の御殿へ上がると、美しい露出の多い女中達が出迎えをしてくれた。
父は大層喜んでいて、俺もつい見入ろうとしたのだが、母に目を手で覆われて見る事は叶わなかった。そのまま見ることなく出ることとなった。玄以に声がかけられなかった……
六番目の茶室は長束正家の出店の茶屋である。
長束正家は西軍に属し、騙され城を出たところを捕縛され、切腹させられてしまった忠臣だ。彼のことは守りたいと思う……
茶屋というよりも広い食堂になっており、皆で会食をすることとなった。
食材も料理人も全国から集められ、美味しそうな、手の込んだ料理ばかりが次から次へと運ばれてきた。
皆で会話を楽しみつつ時間は流れていった。
七番目の茶室は
なかなか装飾や調度品など考えていたようですが、今までのものに比べると見劣りしていた。しかし出来る主というのは、そういうのもしっかりと記憶に残し、褒めることである。ちゃんと褒めたことで、父も関心していたっぽい。
最後の茶室は
彼は直頼の弟で蔵入地の代官であり、先の朝鮮出兵にも従軍しました。天下の名勝・
最後なだけあり、とても素晴らしい物なのだろうと期待をしながら向かう。父もどんな茶室なのか知らない様子で、とても楽しみのようである。
いよいよ敷地に入ったももの、これはと思うものがないのである。岩清水に鹿おどしがあったものの、此方もまた何処にでもある様な者であった。
通路の横に売り棚があり、いろいろな商品が置かれてあった。張子の人形・ひょうたん・ぞうり・扇などはどれもこれも手作りのものであり、高価な物は一つもありゃしない。
草庵の入り口には『光相庵』と傾いた額が掲げてあった。しかし、光っているどころか、ボロボロで質素な草庵であった。
父はは首を傾げ「中に期待できる物がなるのだろうか?」と言ったものの、中も粗末なものでしかなかった。
薄暗くてじめじめとしていたが、ほんのり香が香った。
直忠がお辞儀をして茶を立ていたのである。ただ其の手元にある茶道具もどこにでもあるようであり、唯一違う様に見える茶碗は彼自身で作ったかの様であり、でこぼこ、ゆがんだ茶碗であった。
茶受けも高級な和菓子ではなく、素朴な焼餅です。父はお茶も焼餅を召し上がると……なんの感想はおっしゃいませんでした。
ただ満足されたのだろう、目を細めていた。
風が吹くと鳴子が鳴り、なつかしい感じの音がする。
桜の花びらが一枚、風に吹かれて入り、父の目の前に落ちると、父は外の桜を見て一言、「利休好みよのう」と呟いた。
父の切腹させた千利休を支持するかの様な茶屋に対して父は怒ることはなかった。
むしろ、御機嫌であった。
父は外で遊ぶ俺に視線をやってきていた。
俺は先程「秀頼様どうぞお遊び下され」と手渡された、瓢箪を切って作られた舟を大きな水桶に浮かべて遊んでいた。
ぷかぷかと揺れ動き、手作りながらも何処か幸せな気分になる物であった。
瓢箪の舟には、紙人形が乗せてある。これも直忠が作った物である。不細工な人形で舟もまた、みっともないものであるが、俺はその舟と人形を気に入った。そして「父上之を持ち帰っていい?」と尋ねた。
父はうなずき、直忠を褒めていた。「見事じゃ」と……
直忠はうれしそうでした。父もまたうれしそうであった。
父は満開の桜を改めて眺め、今日の醍醐の花見をモチーフにした句を詠んだ。
『とりはなし 嵐につけよ 花の鈴』
俺ら一向は満足して伏見に帰城することとなった。
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