第7話『醍醐の花見〜破〜』

宴会の後、父は俺たちを引き連れて、大名らに設けさせた八つの茶屋を巡った。しかも其れら八つともただの茶屋ではなく、様々な趣向を凝らした面白いものである。


一番目の茶屋は竹田定加たけだじょうかの出店の茶屋である。


この者は堺で有名な医師のようであり、文禄の役での講和のために来日した明の謝用梓が発病した際には、処方を行うなど対応して親交を深めたらしい。


一服してから裏へと回った。其処には滝があり、継橋を渡って登ってみると、山一面に咲く桜や眼下の景色が見事である。


一応子供っぽさも醸し出した言動をするために、「父上! 一面の桜が綺麗だ!あと人間が米粒のようだ!」とム○カ大佐の言葉使いを真似つつ、はしゃいだ。


まるでこの様に→ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ

俺の喜ぶ様子を見て、父はとても満足そうであった。


行く先々の道端には、見るからに高そうな、銘菓・銘酒・山海の物品・織物・陶磁器・宝飾品・調度品などの品々が山のように置かれていた。


其れを『何故此処にこれ程にも大量の物が有るのだろう』と言わんばかりに不思議そうに見つめる女性達に対して、「好きなだけ持ち帰るが良い」と父が言うと、其の品々の山に女性たちが群がった。


タダな物に群がり踊らされるのは滑稽だと思ったが、なんせ楽しい宴の場なので言葉にするのは慎んだ。


二番目の茶屋は新庄直頼しんじょうなおよりが出店した茶屋である。


新庄直頼は文禄4年(西暦1595年)に高槻城3万石に加増転封され、父の御伽衆も列している。


岩の池には鯉や鮒が放してあり、優雅に泳ぎつつも、遊園地の池の鯉の様に人が近づくと多く集まってくる。


父より渡された鯉の餌を池へと投げ入れれば、我先に、我先にと、鯉が集まりバシャバシャと音を立てて奪い合っていた。つい微笑むと、父上はまた大層お喜びになっていた。


三番目の茶屋は小川祐忠おがわすけただが出店しました。


彼は関ヶ原の戦いで秀秋の内応後に同調して、西軍を裏切ったものの、改易させられるという可哀想な者である。


茶室内には今にも動き出しそうなほどの、迫力たっぷりの馬や鷹の絵が描かれていた。狩野山楽や長谷川宗仁はせがわそうにんといった当代一流の画師に描かせたもので、其の細かなところ迄忠実に再現をされているところに感動して、つい見入ってしまった。これまた父はご満悦の様子であった。

ついでに『毛利、宇喜多などと協力し、豊臣を支えてくれ』と言ってみた。頭に?を浮かべてそうな顔をしながらも「勿論でございます」と返事をしてくれた。


どうにか裏切らない事を願いたい。


 四番目の茶屋は増田長盛の出店の茶屋である。


五奉行一人であり、西軍に属しながらも徳川と内通し、保身を考えた者だ。しかしながら改易され、大坂の陣では豊臣方として参陣している。一応釘を刺すべき相手だろう。



大和郡山二十万石を拝領するだけあり、茶室が最も豪華であった。



仮屋にも関わらず、畳の代わりに金銀箔が敷き詰められており、常に眩しい。鹿苑寺金閣の三階を想像すると良いかもしれない。


ほかにも趣向を凝らしていたようであるが、金銀箔に日光が反射して中々に何も見え辛かった……


ただ「すごいすごい!美しい室内だ!」と興奮して見せたので父は嬉しそうであった。悲しませたくはないという親思いからである、


尚茶室を出ると、目を手で覆うこととなった。少しだけ後悔はした。


当然の様に、「五奉行一心同体となって豊臣を支えてくれ」と言っておいた。これで内通してくれなければ嬉しいが……

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