第3話『今後の方針と初めての上洛』
父と将棋を打ってあと昼食となった。
母淀の方も一緒に食事をするようである。
「ほら拾丸膝の上にお座り♡」
と言ってちょこちょこ歩きで近づいた俺を座らせると、ただひたすらに頭を撫でてくる。此方もまた溺愛っぷりが凄まじい。
お料理は全て毒味をされてからしか食べられない為、残念ながら全く温かい料理を口にすることは叶わない。
この時代に当然ある訳もない電子レンジくらいを作ってやろうかとも考えたが、流石に止めておくことにした。そもそも知識や技術がないから仕方ない部分もあるのだが……
「拾丸あ〜ん」
と母は満足そうに食べさせてくる。兄の鶴松が亡くなってしまっている為、どうしても常に触れていたくなるのだろう。
食べさせられながらも、俺は今後するべきことを考えていた。
其れは当然、豊臣の滅亡ルートの改変である。
先ず今後取れる行動について考えることとする。
一つ目は、加賀征伐に干渉すること。
これ自体は不可能に近い。幾ら天下人豊臣秀吉の嫡男であり、豊臣家当主とはいえ若干七歳の子供の言葉など、徳川の強権で握りつぶされてしまいかねない。
二つ目は、関ヶ原の戦いで石田三成に勝たせること。
これに関してはほぼ不可能であろう。ただその前に行えることもある。其れは朝鮮出兵に際して三成と黒田長政、蜂須賀家政などの対立が起こらないように釘を刺すこと、また筑前転封を受け入れさせることだ。
三つ目は、関ヶ原の戦いの後に蔵入地の多くを失わないように、200万石を56万石にならないようにすることである。これに関しては絶対に回避する。そうしなければしれっと400万石に加増する徳川に抵抗ができなくなる。主家の国力が高ければ、当然相対的に出方も変える必要があるからだ。
四つ目は、千姫との間に子を成すことである。子がいれば中々大坂城攻めをしにくくなる筈である。尤もあの三河狸には通用しないかもしれないが……
五つ目は、徳川と二條城で会見よりも前に、諸大名を集め今一度臣従を誓わせることである。会見の裏で徳川は諸大名に対して、幕府の命に背かないという誓詞を要求している事を阻止しなければ、豊臣が孤立してゆくこととなってしまう。
六つ目は、関白就任である。征夷大将軍に対抗するには、将軍よりも高い官位に就けば良いと言うことだ。関白=天皇と捉えることが出来るほどに権力は大きく、徳川を朝敵を看做すように仕向けることも可能であろう。その為にも上洛をもっと早い段階で行い、関白を五摂家から奪い取らなければならない。
七つ目は、義兄の
秀吉の猶子となり、秀吉の上奏により八条宮を創設した智仁親王で有れば、確実に豊臣の朝廷内での発言力は高まる。これは絶対ではないがなるべく叶えておきたいところである。
八つ目は、片桐且元を大坂より追い出すことのないこと。忠臣片桐を追い出すことが、大坂の陣の契機にもなったとされる。幾ら周囲に反対されようと、人を惹きつけ、徳川から豊臣を守られなければ、どの道滅亡ルートを辿るだろう。
最後の九つ目は、大坂の陣に於いて籠城作戦を取らない。そして籠城した場合裸の城にされることがないようにするのである。三年間耐え続ければ三河狸は死ぬこととなる。死因は食中毒の為直結とはいかないであろうが、大軍で攻めても落ちない城、長期間の戦となれば高齢の肉体にはそれだけで大きな負担である。当然死ぬ可能性だって少なくはない。
以上を『秀頼九箇条条々』とでも名付けてしっかりと実行していこう。
そうして遊びつつ今後の方針を考えながらも、数週間後上洛を果たした。
そして後陽成天皇とも謁見した。
「余の子息である
と珍しく父が仰々しく挨拶したので、悪戯心もあいまって、
「今上陛下への忠誠を誓い、御支え致しみゃす」
と本当は話す予定もなく帰る筈だったのだが、勝手にやってやった。
尤も殺されることもない、朝廷に対して忠誠心を見せることで、今後の行動への布石にもなるからという理由もある。
父はたいそう驚いた様子であり、後陽成天皇
(秀頼主観の為、本来なら今上天皇と表記すべきだが、便宜上諡の後陽成を使用する)
に関しては喜んだご様子で、「朕は齢三にてその心構え嬉しゅう思ふぞ。今後とも様々に精を出すが良い」と返事を頂いた。
こうして初めての上洛は成功した。
ただし、お父上からはこっ酷く叱られてしまった……
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