エピソード⑵苦悩
―今日もだ、今日も書けなかった
落胆のため息が、ある家の扉の中から聞こえてきた。
木製の札にピンクで名前が書いたものがかかっている。
窓の外はすっかり闇で、空には月が煌々と輝いていた。
悩ましい顔をしているのは、花であった。
(わかっている、叶いっこないのは、もうずっと前から・・・)
花は机に座り、正方形の四角の紙とにらめっこしていた。すぐ隣には白い何の変哲も無い封筒が置いてある。
その紙には、5文字のある言葉が書かれている。そしてある場所への招待が。
「また、名前を書けなかった・・・」
いつからだろう、本当に不意のことであった。幼なじみの背が伸びたくましくなってきた頃からだろうか・・・、花は自分の気持ちがわかってしまった。
(いや、もしかしたら、もっと前から・・・、そう、あの靴をもらった日からだろうか・・・)
花は昔のことを思い出した。
昔から低く中性的な声で話すあの人がとても好きだった・・・
何度も手紙をロッカーに入れた。
でもこの思いは伝わることはない、何より伝わってはいけないのだ
(隠さなくては・・・あってはいけないんだ)
今日も花は、眠れない夜を過ごし、限界を迎えふわふわと眠りの渦に落ちていくのであった。
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