第2話 カズめぐめぐ 〜めぐみんの双子?〜
休日の朝、俺は優雅にダクネスの淹れた茶を啜っていた。実にいい気分である。アクアの淹れる茶よりずっと美味い。まあそれもそうか、アクアが淹れたら湯になるからな。
――ドタドタドタドタ、バンッ
騒々しく足音がしたと思えば勢い良くドアが開いた。そこに立っているのはめぐみんだ。
「どうしためぐみん? 騒がしいな」
俺はそう問うたがめぐみんは呆けた顔で何も答えない。
「め、めぐみん? ほんとにどうした?」
「え、あ、あぁその……なんというか、私、めぐみんじゃないんです」
今なんと言った?めぐみんじゃない? 一体どういう事か、見当もつかない。見た感じまんまめぐみんだ。一切変わらない。考えていると、不意に玄関が開く音がした。
「ただいま帰りましたー。ってもう着いてたんですか、だいぶ早いですね」
あろうことか、めぐみんの声である。バニルのやつの魔道具でも使って変なドッキリでもしようとしてるのか? その案は次の瞬間消えた。部屋のドアからめぐみんが入ってくる。めぐみんが二人並んでいるのだ。いくらバニルの変な道具でもここまでのことはしないであろう。となると、これはめぐみんのドッペルゲンガーという事になる……。めぐみんよ、お前はもう死んじまうのか……!
「カズマにもこの前伝えた筈ですが。私の双子の姉が来ると。そういえばあの時はお酒が入ってましたね……」
「ということは、この人はめぐみんのドッペルゲンガーじゃ無いんだな?」
めぐみんは少し吹き出してから言った。
「違いますよ。双子の姉のめぐたんですよ」
「あっ、紅魔のセンスはやっぱり変わらないんだ」
「なにおう! 私の名に何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!」
どっちが喋ってんのかまるで分からない。私の名、と言ったからめぐたんが喋ったのだろう。
「めぐたん、カズマは必ず何か思ってますよ」
「いや言いたいことは無いけどさ、どっちが喋ってんのか分からねぇんだよ」
「そんなことですか。そんなの簡単ですよ。いつも暮らしてる方が私、そうじゃない方がめぐたんです」
「いや分かるか!」
俺は叫喚した。暴論である。いくらなんでもこれは酷い。
「まあ確かに似過ぎている、とはよく言われますが」
「そんなことよりカズマ、買い出しも終わったんですし、爆裂散歩に行きましょうよ」
「お、おう……」
なんだか腑に落ちないまま、俺達は家を出た。
◇◆◇◆◇◆◇
「では始めますね」
めぐみんは詠唱を始める。――しかし俺は体調でも崩したのだろうか。めぐみんが二重に見える。……二重?
「「『『エクスプローージョン』』ッッ!」」
「いやなんでお前ら二人で撃つんだよ!?」
二人で撃つ分、威力も倍である。
「折角二人揃ったんですからいいじゃないですか」
そして、二人して地面に倒れ伏す。
「俺の事も考えろー!!」
俺の悲痛な叫びは虚しく森に溶けていった。
いつもの倍の重さとは辛いものである。前にめぐたん、後ろにめぐみん。正におんぶにだっこである。若干意味が違う気がするが。
「なあ、どっちかドレインするから自分で歩いてくれよ。流石に二人はキツいんですけど」
俺は素直に思ったことを告げた。
「めぐたん、降りてあげてください。カズマがこのままだとスクラップになってしまうらしいですよ」
「そ、そこまでは言ってねぇし!」
今度は前から声がする。
「まだ余裕がありそうですね。暫く掴まっていますね」
その暫くは屋敷に着くまで続いた。
◇◆◇◆◇◆◇
夜。食卓につくのはいつもの四人だけでは無い。めぐたんもいる。
「ホントそっくりね。それよりめぐたんなんて子、今日まで知らなかったんですけど」
「そりゃ教えてませんでしたからね」
結局めぐたんは泊まることとなった。元よりそのつもりだったらしいが。
「しかし、なんで隠してたんだ? こめっこの時も突入してきて初めて知ったからな」
ダクネスの素朴な疑問には三人とも共感した。
「話す機会自体が無いですからね。そもそもダクネスだって隠し子がいたじゃないですか」
「それもそうだな。割と大きい娘連れてきた時はびっくりしたぜ」
「あ、あれはっ! ち、違――!」
弱い所を突かれダクネスは狼狽えた。
その後もダクネスはいじられ続け、涙目になっていた。
夜はさらに更ける。そろそろ寝るか。
「じゃ、俺はそろそろ寝るとするよ」
「じゃあ私たちも寝ますね」
めぐめぐコンビも続く。二人を尻目に階段を上り、自室に向かう。しかし、一人多いってだけで大分調子が狂うもんだ。俺はその日の疲れを溶かすようにベッドにダイブした。
ベッドが揺れる。その揺れが落ち着いた頃、さらに二回、揺れた。疑問に思って右を見る。めぐみんがいる。左を見る。めぐみんがいる。どっちかがめぐたんなんだろうが見分けが一切つかない。
「ええっと、めぐみん?」
「なんでしょうか?」
右から返事がした。どうやら右にいるのがめぐみんのようだ。
「ここで寝るのか?」
「そのつもりですが、何かありますか?」
「いや、何も無いけど……」
嘘です。大アリです。めぐみんが二人居るようなもんだから訳が分からなくなってくる。
俺は、そんな思考はさっさと捨てて、意識も闇に投じようと試みた。しかし、両サイドのめぐめぐコンビが阻害してくる。
右からは、
「カズマは私のモノ、カズマは私のモノ……」
と聞こえ、左からは
「妹に遅れる訳にはいかない……」
え、何、まさかのモテ期到来? めぐみん二人とか最高じゃないか!
「カズマ」
何故だろう、めぐみんから冷たい視線が飛んでくる。女の勘とは怖いものだ、なんでも見通してくる。俺はもう一度邪念を払い、眠りに就こうとした。が、両サイドからの温もりが邪念さえも払わせてはくれなかった。しかしどうすることも出来ない。俺は悶々としたまま意識を手放した。
下弦の半月が昇り始めた頃、俺は揺さぶられる感覚に覚醒した。
右側――めぐみんである。俺が目を開けるとめぐみんの顔が僅か数センチにあった。
そして、影は重なる。軋むベッド。
「んぅぅ……」
めぐたんの寝言……ではなく音のせいか、めぐたんは起きた。そして俺たちのキスを見る。瞬く間にめぐたんの顔は紅潮した。めぐたんはめぐみんを押し退け、俺の唇を奪う。これは夢か? 何度も疑った。どうやら夢ではない。
二人はただただキスをして、元通りの体勢に戻り、寝た。
俺も二人につられて寝ることにした。
翌朝。ベッドの左が空いている。めぐたんは逃げ出したか、いや違う。が、代わりに何かある。なんだろうか。――バニル人形だ。
その瞬間俺は全てを悟った。
アクアもダクネスもグルであったと知るのは数十分後の未来のことである。
◇オマケ◆
「ふはははははは! 小僧の悪感情、非常に美味である!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます