爆裂した愛のカタチ

赤羽 椋

第1話 連れ出した理由

「――マ、カズマ! 起きてください! 一体何日爆裂散歩のドタキャンするんですか!」

 凍てつく朝、何やらめぐみんが強く体を揺すっている気がするが、俺は気にせず寝続ける。

「……今日こそはカズマと行けると思ってたのに……」

 今度は急に小声になったな。いや、違う。声が遠のいたんだ。めぐみんの足音も遠のく。寝直そう、と寝返りを打てば間髪入れず掛け布団が勢いよく飛んで行った。

「なっ、めぐみん?! 寒いだろ!?」

「ふっ、寒い朝も我が爆裂魔法には敵わない! 瞬く間に暖めようじゃないか!」

 なんだかよく分からない理論を力説しているが、その隣で暖かい天国を剥ぎ取られた俺はベッドの上で極寒に刺されていた。


 数分後、リビングに降りてくるとやはりというかなんというか、アクアが暖炉前を陣取っている。

「おい駄女神、そこ退くんだ」

「嫌よ、だってあんた毎日毎日暖炉の前に座ってるでしょ。今日くらい良いじゃない」

 今日も変わらず駄女神モード全開で口を尖らせて出てくるのは文句、そして文句。

「まあまあ、良いじゃないかちょっとぐらい譲ってあげても」

 ダクネスが俺を説得してくる。まぁ俺も優しい男だから一日ぐらい譲ってあげなくもないけどな! アクアめ、得意気になりやがって……、覚えてろよ!

 俺は今だけ暖炉前を諦めて食事を摂ることにした。

 食事中ずっと、ロリっ子の視線を感じ、食べづらかったが。


 食事を済ませた俺はさっさと俺のベッド……には行かせてくれない人がやはり約一名居た。

「さあカズマ、今日こそは来てもらいますよ!」

 めぐみんは俺の腕をしっかりと掴んで居る。どうも逃がす気はないらしい。

「えぇ〜、寒いからヤダ」

 それでもあの暖かい天国を求め手を振り払おうとするも、

「な、なにおう! 私なら瞬く間に暖められるというのに! とりあえず行きますよ!」

 めぐみんに引きずられ、俺は極寒の外へ飛び出して行った。


 めぐみんに手を引かれるまま歩いていくといつもの爆裂スポットとは全く違う、林の中に来た。

「――あれ? 今日はいつもと場所変えるのか?」

「違いますよ」

 めぐみんは俺の素朴な疑問にそう答えると、俺にゆっくりと近づいてくる。

「実は私、新しい魔法を習得したんですよ」

「あ、新しい魔法?! なんの魔法だ?!」

 衝撃のカミングアウトに俺は面食らった。何しろあのめぐみんが爆裂以外の魔法を習得したのだという。万に一つにもありえない事態だ。

「ふふっ、それはですね……魅了の魔法ですよ」

 めぐみんは、ゆっくりと、そして艶やかに言った。しかし俺の記憶には魅了魔法など存在しない。つまり、めぐみんの発言の意味は明らかだ。いくら鈍感な俺でも分かる。

 そうこう考えている間にいつの間にかめぐみんとの距離は最早ゼロになっていた。見つめ合う目と目はたった十七センチしか離れていない。不意に、腰に物理的圧力を感じた。その圧力は決して強くなく、包み込むようなものだ。

「とぉっ!」

 ロリっ子らしい声と共に視界が一気に揺れた。

「やっと、二人になれましたね」

 耳元に囁かれたその言葉は、俺の抵抗も虚しく心拍数を上げる。良くなった血行によって頬は否応なしに赤らむのみだ。

「め、めぐみん?」

 急な強い刺激にプチパニックに陥り、語彙を失った俺の脳はただ目の前の彼女の名を呼ぶことのみを許した。

「なんですか? カズマ」

 またしても甘い吐息が耳を覆う。

「爆裂散歩なんてただの大義名分にすぎませんよ?」

 今更な事実を、しかし俺に咀嚼させるように伝えてくる。

「めぐみん……なんでぅむ」

 俺の言葉は強制的に遮られた。そう、めぐみんの唇によって。

「んぅぅ……」

 長く、深い。林に倒れ込み、重ねられたのは唇だけに留まらない。深い、深い口付けである。

 実際は十数秒、体感は数分の時が流れ、俺たちの影は離れた。

「これからも、お願いしますね」

 めぐみんは最後に言って、詠唱を始めた。

 今日も、いつも通りに爆音は轟く。

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