わたしはなりたいものになれたはずなのだ。
- ★★★ Excellent!!!
人が人たる感情を取り戻したいと言う者がいたら、私はこの作品を薦めるだろう。間違いなく、読み手の感情が常に上下し続けることになるからだ。
当初はあまりに飛ばした設定に笑うしかなく、ほぼ唯一の一般人である安奈の存在に癒されていた。が、物語が進むにつれて読者にそんな余裕はなくなる。
本作には様々な登場人物が綺羅星の如く登場し、去っていく。そんな素早い入れ替わりも魅力の一つだ。登場人物が多いにも関わらず、彼女たちのつながりの描写が巧みなのと、各キャラクタが立ちまくっているので、意外と混乱することなく読み進められた。スターシステムも巧みに用いられ、高柳氏の別作品も読みたくなってしまう。
前述の安奈は、次第に状況が過酷を極めるなかでも自分を見つめ、その時々にできる最大限のことを行うことができる人物で、作中で成長しつつ変化はしない絶妙な立ち位置にある。また、個人的には、世羅伊織というキャラクタが最も印象に残った。彼女は中盤までエグい私欲に邁進する残念な悪人ぶりを晒すが、後半の見どころにおいては美味しい役どころで私の情緒を破壊した。
作中のユーモアは魅力的で、とくに「ヒロシマの夜(法律上の問題で八時までを指す)」という箇所はツボすぎた。たびたび登場する「こくどうの根性」というフレーズも強烈で、あらゆる問題を解消する素晴らしいマジックワードになっている。
その効果もあり、戦闘描写は戯画的でありながらも、生々しさや迫力を損なわない。死の描写が多い作品ではあるものの、読み手がスカッとできるような落としどころをあちこちに準備している。そのバランス感覚は絶妙で、ひたすら盛り上がる部分を描いているだけにも見えるのに、物語としての推進力を保っている。
もともとTwitter連載していたマイクロ小説だったこともあり、戦闘シーンには『ニンジャスレイヤー』的なテンポや表現の雰囲気が感じられるが、それを著者はしっかり我が物にしているようだ。
ストーリー全体を通して、衝動的な展開と論理的な構成が入り混じっており、それが作品の独特な魅力を生んでいる。
特にある場面で安奈がつぶやく「わたしはなりたいものになれたはずなのだ。」というセリフには胸を打たれた。
登場人物たちの生き様は鮮烈であり、彼女たちの欲動と葛藤が強く伝わってくる。特に三十五話の展開は熱い。それだけに最終決戦はひたすら物寂しい。
熱いだけでは、感動だけでは終われない。人生とはそのようなものだと『こくどう!』は教えてくれる。