実ってもいない恋だけど
終電
あれから八年
あの日から、もう八年も経った。
どうりで老けるわけだ。化粧を落としながら、鏡の人にそう呟く。
社会人一年目に終わったあの恋は、今も心に残り続けている。
——俺、お前のことそんなふうに見てなかった。
長年を共に過ごした、幼なじみといってもいい関係の彼は、わたしの気持ちをそんな言葉で片付けてしまった。
——じゃあ、しょうがないか。これからも、友達、で。
わたしが彼を好きだと誰よりも分かっていたわたしも、わたしの気持ちをそんな言葉で胸の奥に押しつけた。
最低だった。
机の上に置かれた、白くてツルツルとしたいかにも上質な紙。そこにはネイビーブルーの洒落た文字が並んでいる。
『結婚します』
背景に描かれた、ミモザの花がかわいらしい。彼の趣味ではないな、と自然に思い、我ながら嫌になった。
今夜、わたしは一つ大きな決心をした。
これからわたしは誰かと恋愛をするかもしれない。結婚し、子供をもうけ、幸せな家庭を築くかもしれない。
それでも、彼を愛していよう。
いつまでも、彼を愛していよう。
実ってもいない恋だけど、一生愛して生きていこう。
きっと、死にたくなるのでしょうね。
実ってもいない恋だけど 終電 @syu-den
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます