15.「ただの八つ当たり」
半壊した部屋で1人、今日の出来事を延々と振り返る。
漆は、骸に家族を殺され、人間である大切な人『藍』を助け出すために、共存派を探し回っている。
だが、当の『藍』は、すでにこの世にいない……。
骸根絶派と共存派の休戦協定を破ってまで探そうとするその思いは、はたして愛ゆえなのか、執着なのか……?
姉である黒乃は、骸の存在を知っているのだろうか。
と、その時、扉がノックされる。
「どうした?」
「真紘くん……少し、お話できるかな……」
恐る恐る、三澤が部屋へ入ってきた。
「今日、黒乃ちゃんから電話が来たの」
「黒乃を知っているのか⁉︎」
「藍ちゃんの様子とか、一時期連絡してたよ。本当に、数年ぶりにお話ししたの。黒乃ちゃんも、藍ちゃんと仲が良かった漆くんがここを抜けて消息不明だったことを知ってるから」
三澤の手には、『藍』と漆が写った写真があった。
「今日、漆君に会ったって本当……?」
「……あぁ」
「なんて、言ってた……?」
「藍を救う。藍を探すために共存派を攻撃してるって……」
「漆くん……まだ、藍ちゃんを探してるんだね……」
声を潤ませ、顔を伏せる。涙が、ポタポタと写真を滲ませる。
「漆くん、藍ちゃんが死んじゃった日から、ずっと藍ちゃんと話してたの。誰にも見えない、漆くんだけの藍ちゃんと」
「……」
「ある日、藍ちゃんがいなくなったて言ってた。そのうちまた来るよって気にも止めずにいたら、お母さんが殺される事件が起こって……」
大切な人の死は、あの小さな体には大きすぎた。そうして、漆は狂っていってしまったのだ。
「お願い、真紘くん。漆くんを止めて。あの子、きっと……まだ、現実を受け止め切れていないの」
「……約束する。あいつは、絶対に俺が止める。止めなきゃいけないんだ」
「…ふふ、ありがとう」
三澤は、涙でくしゃくしゃな顔で、にっこりと笑った。
漆との初めての邂逅から、3日が経った。
この3日間、全国各地にある共存派の施設が攻められ、死者は50人を超えた。
発生する真骸は、全てがBランクの上位レベルらしい。
焦ったい思いを押し殺し、時を待つ。
仮に、今までに発生している真骸は全て、自然発生ではなく人為的な力によって生み出されているのだとしたら……。
その恐ろしい仮説も、可能性がある限り安心はできない。
今度真骸が現れたら、絶対に俺が倒す。その決意を燃やすのだった。
薄暗い地下。車が並ぶあるデパートの駐車場で、その恐ろしい実験は行われていた。
「んん、んー!!」
頑丈に拘束された、サラリーマンと思しき男が、拘束された口で悲痛に踠き叫んでいた。
「火鎚さん……これでいいですか?」
「あぁ。全国の混骸から集めたこのエネルギーの量…さぞ、素敵な実験結果が生まれるだろうよ」
「すみませんおじさん…混骸として生まれてきてしまったこと、恨んでください」
そう呟くと、漆は踠くサラリーマンの腕に、黄色く光る液体を注入した。
「さがれ、漆…怪物が誕生したら、俺たちは、民間人の避難だ。人間を殺すわけにはいかねぇからな」
「わかっています。俺たちが殺すのは……骸……!」
「それと、このデパートの何処かにあるらしい。かつて、人類が真骸と戦うために黎明が作り出した「骸刀」が」
「行きましょう、火鎚さん。俺は、代谷を殺し、藍を見つけるため。あなたは、骸を殺し、骸刀を手に入れるため」
二つの影がその場から消えたのと同時に、赤い稲妻が弾け、最悪の怪物が産声を上げた。
ドォン…!
爆発音が轟き、巨大な腕が、デパートの床を破壊し、現れる。悲鳴が、響き渡る。
「少々荒っぽいが、勘弁しろよ……!」
火鎚が、手に持っていた鈍器でデパートの壁を破壊し、何十人と通れる大きな穴を作り出す。
「ここへ逃げろ!! 早く外に出るんだ!!」
人々は悲鳴と共に、その穴から外に飛び出していく。
「くく……っ! さぁ、どう出る?代谷真紘……!」
授業が終わり、教室を後にする。
今日も、三澤先生の勉強会を約束しているのだ。早く帰って、準備をしなければ。
「おい! 神木パークに怪物が現れたらしいぞ!」
「怪物⁉︎ なんだよそれ!」
考えるより速く、足が動き出した。怪物。それを聞いただけで、怒りが湧いてくる。真骸に対しても。骸を、怪物と呼ぶ奴らに対しても。
そのデパートは、もはや原形をとどめていなかった。
東京ドーム1.5個分くらいはあろうその広い敷地を、破壊し尽くす怪物がそこにはいた。
「なんでここを……! 漆の仕業じゃないのか⁉︎」
「俺だよ、代谷真紘」
声の主は、駐車場に立つ看板の上に立っていた。
真紘を冷たい目で見下ろし、その後怪物を見る。
「すごいもんだよ、骸。あんな怪物、誰が最初に倒そうと思ったんだかね」
「ふざけんなよ、漆! 言ったよな⁉︎ 混骸を殺せば、悲しむ人はいるって!」
「そんなもん、知ったことか」
冷酷な目で真紘を見据える漆には、もう言葉など届かない様子だ。
漆はポケットから一枚の写真を取り出し、代谷に見せる。
「だーれだ」
「おまっ……! それは……!」
そこに写っていたのは、紛れもない三澤の顔だった。
「藍を見つけるのが、第一。骸を殺すのが第二だ。…三つ目の目標は、お前の絶望した顔を見ることに決めたんだ」
「三澤をどうするつもりだ」
「お前があの真骸に負ければ、お前が死ぬ前に目の前でこいつを殺してやるよ」
「三澤はお前のことを、今も大切に思ってるんだぞ……!」
「知ったことか。俺は、自分の目標を叶えたいだけだ。それ以外、何もいらない」
もう何も伝わらない。見切りをつけて、あの怪物を睨む。
怪物の、あの目を。
「……能力なら使えないぞ」
「⁉︎」
怪物と目があう。なぜか、能力が発動できない。
怪物は、止まらない。
「何をした……!」
「あいつに勝ったら教えてやるよ」
小細工も何も通用しない相手。能力は何故か使えず、絶体絶命。負ければ、三澤を殺される。
勝てる可能性は0に等しい。それでも…
「必ず、倒す。混骸を舐めるなよ」
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