13.「届かぬ想い」
ずっと頭から離れない。
真骸が共存派を襲う理由は何だ……?
「たまたま」だとか「自然発生した」では説明がつかないほど、共存派の被害が大きすぎる。狙ってなければできないほどに。
そして犯人は人類根絶派ではなく、骸根絶派に入った「畠野漆」の可能性が大きい……。
では、何のためにピンポイントで共存派を狙っているのだろうか。何かを探している…もしくは、殺したい相手がいる……?
「……くん! 真紘くん!」
「え?うわぁ! 黒乃⁉︎ いつのまに!?」
「全然反応ないから魂抜けちゃったのかと思ったよ! 何考えてるの?」
「あ、いや、将来はマンションより一軒家に住みたいなって……あ、あはは」
「ん〜、まぁいいけど。もう学校終わったよ?」
「え⁉︎ もうそんな時間なのか⁉︎」
時計を見ると、すでに16:30を回っていた。
「今日、俺一歩も動かなかったよな……?」
「うん、お昼ご飯も食べてなかったよ」
「……それはやばい」
考えすぎもほどほどにしなければ。
とにかく今自分ができることは、次いつ攻められても対応できるよう、「骸刀」……骨から作る武器の扱いを少しでも極めることだ。
能力には、あまり頼らずに。
「真紘くん、このあと暇?」
「え、うん。夜までに帰らなきゃだけど」
お。デートのお誘いか。
たまには息抜きをすることも大切だろう。帰ってから、またゆっくりと考えればいい。
「ちょっと付き合って欲しいところがあるんだ」
***********************
四面を覆う木々。
歩くたびに差し込む木漏れ日は、すっかりと温かな橙色の光に変わった太陽の光を優しく大地へと注いでいる。
「どこに向かってるんだ?」
「もうちょっと先。見せたいものがあるんだ」
「……?」
カァカァと鳴く鳥の声、虫のさざめきと砂利を踏みしめる音。
なんだかとても懐かしい感じがする。これが、ノスタルジーというものなのだろうか。
「……着いたよ」
「なんだ、これ……」
森の奥に、抽象的な形をした巨大な石像が建てられていた。
足元に、拙く彫られた文字が書いてある。
『花木 黒乃 はなき...…ん……ず…………ょ』
所々掠れた文字は、とても読めるものではなかった。
「ここはね。私と、妹の思い出の場所」
「妹……?」
「もう、随分前に死んじゃったの」
「……そっか」
少し儚げに下を向き、そっと文字をなぞる。
悲しげなその横顔は、今まで見たことのない表情をしていた。心臓の鼓動が速くなる。
「この場所にはね、私にとって特別な人だけ連れてくるの」
「特別な、人……」
「知ってほしいから。私のこと。大切な妹がいたこと」
鼓動が、だんだんと速くなり、耳の奥で鳴り響くのがわかる。血が、心が、全身を駆け巡る。
「真紘くん」
「……うん」
「私、真紘くんのことが……」
「あれ〜? もしかして黒乃さん?」
その緊張と期待に息が止まりそうな空間は、唐突に、無秩序に、無作為に破られた。
「あなたは……」
「残念。藍はいないんだね〜」
そこには、女とも男とも似つかない顔、声、風貌の子供が立っていた。
「お兄さんは、初めましてだね」
「あ、あ……」
その殺気は、凍りつくほど冷たく、燃え尽きるほどに激しかった。
重すぎるその視線に、声が出ない。汗と動悸が激しくなってくる。
「俺の名前は、畠野 漆。花木 藍の居場所を教えてよ」
そう言うと少年は、怪しげに笑った。
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