6.「劣等種」
生徒会室に差し込む昼の光。刺すように暑いその光は、緊張に早まる鼓動にプレッシャーをかけてくる。
黒乃の安否を確認しなければならない。早くしなければ。もし怪我をしているなら、手遅れになる前に。
「ーーまず。何故、この学校の人間を殺したのか。それについてお話ししましょう」
「⁉︎ なぜ話す⁉︎ お前たちにメリットがあるのか⁉︎」
「メリットなんてありません。ただ、あなたは私たち側に来て欲しい。それだけですよ」
「どうして俺にこだわる……!?」
「……そう、ですね……。この学校で出会った混骸同士の縁、とでも言っておきましょうか」
そういうとみるは儚げに視線を落とし、ロッカーから地面に着地する。
隣に置いていた鞄を床に置き、そっと撫でる。
「私たちは混骸の『人類根絶派』。意味は、わかりますよね?」
「……あぁ。」
「私達の両親は、人間に殺されました。人を襲う汚らわしい怪物。人外。化け物。そう言って目の前で撲殺されました」
「…」
「この学校に入り、生徒会長になったのは少しでも情報を掴むためです。ここの生徒の流れを」
「今日、この日の事件を起こすためか……⁉︎」
「それもありますが……1番は、顔がきくこと。知っている人間、身近な人間にある日突然殺されたり、信じていた人に大切な人を奪われる絶望感ってすごいでしょう?私は、人間に絶望を与えて殺したい」
「それが生徒会長になった理由なのか?」
「私の両親を殺したのは、兄弟の中で1人だけ骸の血を引いていなかった長兄。人間です。そして、両親が唯一悩みを打ち明けていた、母の親友でした」
「……ッ!」
「私たちは、姉弟以外を、誰も信じない。人間は醜く、殺すべき愚かな生物なんです。信じれば、裏切る。弱ければ殺される」
瞼を閉じ、少しこの空気を吟味しながらゆっくりとこちらの目を見つめる。その瞳に狂気的な眼光を灯して。
「私は弟とは違います。こちら側に来ないのなら、あなたを殺す」
「……!」
その殺気は、お嬢様の見た目をした女性からは出してはいけない程恐ろしいものだった。
「最後通告です。こちら側には来ないのですね。」
「……黒乃はどこだ」
「残念です」
そう呟くと一瞬、名残惜しそうな表情を見せる。
刹那、腕の骨から剣を作り出し、目にまとまらぬ速さで真紘に斬りかかる。
おそらく、日本刀と変わらないほどの切れ味を持っているその剣は、弧を描いて真紘の胴体を狙ってくる。
パリィン……
砕けたのは、刃だった。
「……大変そうだな」
「何で来たんだよ」
「一緒に、死に物狂いで歩いたじゃねぇか。俺らは、もう友達だ」
「……そっか」
目の前に、腕をクロスさせてガードしている、灰咲が立っていた。
刃を受けたその腕には、傷は一つもない。
「柔けぇ刀だ」
「卵一貫、あいつは強いぞ」
「卵一貫言うな。……こいつには、8時間の情があるんでな。殺させねぇよ」
灰咲はそう言うと、太い腕を地面に打ちつけ、みるを睨みつける。彼の能力は、恐らく硬化と言ったところだろう。
「どこまでもどこまでもしぶとい……片付けてやるよ、地球の未来のために」
みるの口調と雰囲気が変わった。戦闘モード…というより、人が変わったようだ。
「ねぇちゃんは……なぁ、一つの体に……ふたつの、人格を宿したんだ……こいつには、お前らじゃ、勝てねぇよ……」
峰森ねろ。目覚めたようだが、体が言葉についてきていない。
「安静にしてな。ガキは帰って寝てろ」
人格が変わる……二重人格?。峰森みるの能力は、第二の人格を呼ぶという能力だったのだろうか。
「あたしの名は峰森まり。覚えときな」
そう名乗ると、みるが地面に置いていた鞄の中を取り出した。
本物の、日本刀である。
「さぁ、チェックメイトだ」
スッ、と日本刀の切先をこちらに向ける。
同時に、後ろからの殺気が強まるのを感じる。
影は、先ほどとは比べ物にならないほどの量の剣を、鎌を、その異形に宿している。
灰咲と真紘は、背中を合わせてニッと笑った。
「お前と出会ってまだ1日しか経ってねぇけど……負ける気しねぇわ」
「いいことだ。精々口だけになるなよ」
灰咲は、内ポケットに持っていた小刀をこちらに渡してくる。
「対骸用の刀だ。大事に使え」
「さんきゅー……!」
そんなやりとりをしていると、まりは形相をキッと鬼のように吊り上げ、腰を落として刀を構える。
「灰咲、殺すなよ!」
この声が試合開始のゴングとなった。2人一斉にそれぞれの敵に向かって走り出す。
鬼のような形相のまりはスッと目を閉じると、腕の力を抜き、切先を下へ向ける。
「はぁぁぁぁ!」
斬られる事など考えていない。ただ、ひたすらに抵抗することだけを考える。勝ち目、勝率、そんなものなど関係ない。生きるのだ。
まりが、カッと目を見開く。
ピィ……ン……
耳鳴りのような音がした。まりの目から、色が無くなる。まただ。神は、ここでも悪戯を発動する。
しかし、これまでと明らかに違うのは、まりが倒れないこと。刀を構え続けているということ。
「勝つことだけを、考えるんだ!」
まりの、間合いに入る。
シュンー
刀は、振られた。間一髪のところでかわしたが、無意識のまりは、本能で刀を振るっているのだ。
これまでの敵と明らかに違う。
直後、まりが飛び上がる。天井に足をつけ、蹴りつけた。目標は灰咲だ。
「灰咲! 後ろだ‼︎」
遅かった。血が吹き出し、視界が赤く染まる。
腕がとび、ボト、と床に落ちる。血を吹き出し、崩れ落ちた。
「灰咲ィ‼︎」
違う。違った。腕が吹っ飛ぶなどという、そんな生やさしいものではなかった。少なくとも、負傷はそれだけだろう。だが、もっと残酷な現実がそこにはあった。
腕を失い、血を吐き出して倒れたのは峰森ねろだった。
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