3.「敵は、己の中に」
「ほら、ついたぞ」
夢と現実の狭間を行き来しながら、地獄を歩いていた真紘にとってはこれ以上にない良い知らせである。
ようやく目的地に着いた。空は少し明るくなってきている。
なぜこの場所を目指しているのかさえわからなくなっている脳内に、何とか血を巡らせてため息をつく。
実に8時間。骸についての話を聞き、「この話を聞いた者は生かして帰せない」と脅された挙げ句8時間も歩かされたのだ。
目の前に、学校のような建物が聳え立っている。
「ここが、お前がこれから住む場所だ」
例の話を聞いた者は、誰一人として家には帰ることはできず、ここに送られるらしい。
「ようこそ、共存派へ」
ここは、骸と人間が共存できる世界を目指す者たちの場所なのである。
「とりあえず中へ入れ。わからないことだらけだろうから、しっかりと整理しておけ」
「そうだな……わからないことだらけだ。でも、とりあえず休憩してから考えることにする」
「それがいい。代谷真紘。共存派として、お前を歓迎する」
「案内ありがとな! 卵一貫!」
「誰が卵一貫だ!」
案内役の頭は、スキンヘッドに寿司のネタを乗せたような、世紀末のようなスタイルなのである。
「いずれ戦友にもなる。覚えておけ。俺の名は灰咲新司。卵じゃねぇ」
「ありがとな、灰咲。またどっかで会おう」
ここまで案内してくれた灰咲と別れ、扉を開ける。中には誰もいない。というか真っ暗だ。
「すみません、誰かいませんか?」
シーン・・・返事がない。
「すみません! 共存派として新しく来ました、代谷真紘といいます! 誰かいませんか?」
ボッ、と目の前に光が灯る。蝋燭のような小さな光。誰かいるみたいだ。
「あの、新しく来ました……」
自己紹介をしようと、光の灯った方へ歩みをすすめると、右に、左に、後ろに、一気に光が灯される。
「あなたは何者ですかどこから来たのですか何が目的ですかどうやってきたんですか」
直後、4方向から質問を一気に同じ速度で同じテンポで読み上げられる。
「え……⁉︎」
光に反射して少し顔が見える。目に光のない、前髪を切りそろえた愛らしい女の子の顔。しかし、4方向全ての光に、同じ顔が映っていた。
ドッペルゲンガーに迫られているように。段々と、女の子全員が、中心である真紘の方向に詰め寄ってくる。恐怖でしかなかった。
「ごめんなさい‼︎ 許してください‼︎ 僕何かしました⁉︎」
半泣きになりながら、顔を伏せる。
トン、と背中に手を当てられる。大袈裟なくらいビクッと体を振るわせる。終わった。
「ふふ……ふふふふ」
笑い声がする。食べられるのだろうか。
「ふっ……あははははは‼︎」
突如、部屋が明るくなる。そこには、先ほどの死んだ目の少女の面影はなく、ただただ無邪気な悪戯っ子の顔がそこにはあった。
「君、面白いね! そんなにビビっちゃうの?」
ここまで言われて、ようやく気付く。この女の子に、ハメられたのだ。
「あっはははは! 動画に残しておきたかったよー!」
初対面のガキ…女の子におちょくられて、内心怒り浸透だが、ここは大人の対応を見せるべきところである。
「お嬢さん……喜んでいただけて何より。ここの、管理人さんはいるかな? 確か、雛田真澄さんというんだけど」
緋石にもらったメモを見ながら尋ねる。緋石のメモには、「管理人・雛田真澄を尋ねてね♡」と書かれている。
「君、共存派なんだね! 面白い人が入ってきてくれて、私嬉しい!」
「そ、それはよかった。ところで……」
子供はどうしても苦手だ。どう対応すればいいかわからない。
「私ね、驚いてる人の様子や仕草で、だいたいその人がどんな人なのかわかるの。」
「……?」
「『私は』、あなたを信用します。ようこそ、共存派へ。私の名前は雛田真澄。先程の私の能力は分身。ここの管理人をしています。」
先程の子供っぽい様子が一気に抜け、大人の女性の雰囲気が溢れ出す。まるで、年上のように。
「真紘くんは、高校生だったよね。私は、24歳。一応、年上なんだよ?」
童顔とか、そういう次元ではない程の年齢詐欺具合なのであった。
「君の部屋は、305。何かあったら、いつでも呼んでね! あ、隣の部屋の子、多分寝てるから、起こさないようにしてあげてね!」
「……わかりました。」
調子が狂う。とりあえず、歩き疲れて驚き疲れたので部屋に入って今日の情報整理をしよう。
扉の前に立ち、号室を確認する。ここが、これから住む部屋か。
扉を開けると、何もない殺風景な和室がそこにあった。
荷物をおいて布団を敷き、いつでも寝れる体制を作る。
「とりあえず、今日のことをまとめるか……」
メモとペンを取り出し、緋石に書いた情報をまとめる。
今は午前の6時前。ちょうど10時間ほど前に、怪物事件は起きた。
「この世界には、『真骸』と『混骸』が存在している。「混骸」には超能力が備わっている。『人類抹殺派』と『骸抹殺派』、そして『共存派』が存在している……」
この話を聞いてしまったから俺はこんなところに来るハメになってしまった。
ここは、共存派がお互いを守るために集まった施設らしい。
家族には、知らせはいっているそうだ。学校も、いつも通り行けるらしい。かなり遠いので、毎日車で送ってもらうことになるらしいが。
急展開すぎて、あまりついていけないのだが、これも現実。仕方ないと受け入れて仕舞えば、案外楽なものだ。
「よっしゃー! 今日はもう寝よう! 疲れた状態で考えても、何にもわかんねぇや!」
疲れていては思考停止してしまう。さっさと寝て、考えるべきことは明日考えよう。
敵は、己の中にいるものなのだ。
***********************
夢を見ていた。とても幸せで、長い夢を。
目覚めると、涙があふれていた。あの夢の余韻に浸ろうと、もう一度あの夢を見ようと、毎日思い続けた。それでも、もう二度と見ることはなかった。
「何をしてるんだ、僕は……」
呟き、うずくまる。
「大好きだよ。もう二度と、悲しい思いはさせないから……」
そう言うと、白髪の男はまた深い眠りにつくのだった。
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