第10話 博士の恐怖の試作品

「ふぅ」


 片付け終了。

 いやー長かったー。1時間掛かったー。


「……患者がする事じゃないけど」


「悪いな。でもお陰で結構スッキリしたよ」


 博士は袋を結びながら言う。


「それはよかったです」


 まぁ、殆どカップ麺だったんだけど。


 カップ麺は散らかっていたが、電子機器等は、綺麗とまでは言えないがある程度は整備されていた。

 ただこれだと博士が何を研究しているのか一切分からない。


「あ、そういえば、博士は一体どんな研究をしているんですか?」


 研究所という事は何かの研究はしている筈なので訊いてみた。


「ああ私の研究か。そこまで偉大じゃないよ」


「いいですよ。気になるんです」


「……魔法についてだ」


「魔法、ですか?」


 俺は軽く驚いた。

 こんなに魔法とは無縁の電子機器まみれなのに魔法についての研究をしているからだ。


「今意外だと思ったろう」


「はい。意外です」


「だろうな。まあただ単に興味があったってだけさ」


「博士はセイヴァーなんですか?」


「いや、私はセイヴァーなんかじゃない普通の人間さ」


「セイヴァーじゃないのに興味を?」


「ああ……まあそうだな。あ、言い忘れていた事があった」


 ゴミの入った袋を結び終えた博士は言う。


「私は確かに研究をしているが、発明もしているんだ」


「発明?」


「それも魔法関係なんだけど、見るか?」


 そう言うと博士は机の引き出しを開けてそれを取り出す。


 まだ何にも言っていないんだけど。


「これだ」


 そう言うと博士はカプセル剤の入った入れ物を俺に見せる。


「薬、ですか?」


「いや、これは私の発明した【魔力補充剤】だ」


「魔力補充剤?」


「ああ。これは私がセイヴァーの為に作ったその名の通り不足した魔力を補充するものだ。昔の偉人様のお陰で魔力の物質化の技術があるから、それを利用して薬のように取り込めるようにした、ただそれだけさ」


 俺はカプセルを手に取ってみる。


 こんな小さなカプセルの中に魔力が入っているのか。あ、確か物質化した魔力を圧縮化した人もいたな。


「あの、これセイヴァーじゃない人がこれを飲んだらどうなるんですか?」


 俺は少し期待しながら訊く。

 もしかしたら、普通の人でもそのカプセルを取り込んだら、魔法が使えるのかもしれないからだ。


「あー、それなら私自身が実験した」


「え? 博士が自ら?」


 確かにここ何年かで、人体実験をするには自己責任、両者の同意などのいろいろな条件により少しは規制が緩くなってきている。


 まあだとしても普通は自分を実験体にしない。


「それで、どうなりました?」


 恐る恐る、でも少し期待しながら訊く。


「人それぞれだとは思うけど、飲んだとしても普通の人間は魔力を溜めておく機能を持っていないから数十秒で魔力が抜けきる。しかも、言い忘れていたけどこのカプセルには副作用があって、それに私は耐えられなかった」


「副作用?」


「飲んで魔力が抜けた後だ。普通の人間の筋肉や皮膚が魔力に対して拒否反応を起こすんだ。だから最初は飲んだ瞬間に体を蝕まれたけど、今はカプセルの中に物質化した魔力を肉体に問題のないものだと錯覚させる薬を入れたから、魔力がまだ体に残っている時は大丈夫だ。けど魔力が抜け切ると錯覚の薬も尽き、肉体的な苦痛が訪れる」


 つまり、普通の人間が使うとヤバいって事か。


「でもその間なら魔法を使えるんですよね」


「それもそうはいかないんだ。まず魔法っていうのは、体内にある魔力を放出して作り出した魔法陣を媒介にして初めて使えるんだ。だが普通の人間には魔力を放出して魔法陣を作るなんて機能は無い。だからせいぜいこれを飲んだとしても、身体能力が上がるくらいだ」


 という事は、これは完全にセイヴァー向けという事か。

 ん〜俺が使うにはリスクが大きいか。


「因みに、これは奈々に定期的に渡している。まだ実験段階の試作品だが、本人が是非是非使わせてくださいって土下座して言ってたからさ」


「……そうですか」


 絶対嘘だ。半強制的に渡されただろ奈々。


 俺が頭の中でそう妄想している一方、博士はポケットからスマホを取り出して見ていた。


「お、奈々からだ。あと数分で着くらしいぞ。同居人も一緒だと」


「ッ⁉︎」


 ちょっと待てよ、水音はここ数日の間1人で暮らしていたのか? そんな筈はない。ってことは奈々の部屋か? ……だとしたらモンスターだってバレてるかもしれない!


「どうした? 真っ青な顔して」


 ……終わった……どうしよう。問い詰められたらどうしよう。死刑にでもなったらどうしよう。


 俺はバレていないで欲しいという小さな希望など眼中になく、ただただ言い訳だけを考えているのだあった。

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