第11話 実験開始前

「はやと!」


 数日ぶりに俺と会う水音は、目に涙を浮かべながら飛びついてきた。


「お、おわっ」


 俺はその勢いのあまり床に倒れる。


「はやと! はやと! よかった! うれしい!」


 相変わらずの片言だが、ここ数日の間にまた新しい言葉を覚えられたようだ。

 素直に嬉しいと思う。だが、


「隼人君」


「な、奈々」


 仁王立ちの奈々が目の前にいる為、嬉しいよりも恐怖の方が勝ってしまっている。


 頼む。バレてるなよ。やめろよ。バレてるなよ。


 俺は心の中で願う。


「……」


「……」


 沈黙。

 そして、


「よかった」


「奈々?」


「本当に……よかった……」


 奈々は涙を流しながら言う。

 つまり、これはバレていないという事だ。


 よかったぁぁぁぁ! 本当によかったぁぁぁぁ!


 心の中でガッツポーズを決める。


「泣くなよ奈々。俺ちゃんと生きてるだろ」


「うん。でも、本当に心配して……」


「まあ、そうだよな。そりゃ心配するよな……それと、ありがとう。水音を数日見ていてくれて、そしてあの時助けてくれて。あれがなかったら、俺はこの世にいなかった」


 奈々は涙を拭く。


「無理して悪かった」


「本当だよ! 隼人君が死んでたら私は……私は……」


 奈々は涙を拭いたにもかかわらず、未だに震えた声で俺に言う。

 その時だ。


「お二人さーん、お取り込み中のところ申し訳ないけどさ、それ家帰ってからやらないか?」


 無理矢理博士が話に割り込んでくる。


「これから私また研究再開しなきゃだからさ。ここ数日は君の看病で付きっきりだったからね、ずっと止まってるんだよ」


 おっとそれはいけない。俺なんかの為に止めてしまっていたか。


「すいません。それとここ数日間、お世話になりました」


 俺は博士に頭を下げる。


「……いいよいいよ。人助けなんて久しぶりだったから、こっちも嬉しかったよ。それともし君がよかったら、私の次の試作品の実験台になってくれ」


「ません」


 即答する。


「フッ、つれないねぇ。まあ気が向いたら遊びに来るといいさ」


 その後、俺達はこれ以上博士の邪魔をしないように、研究所を後にした。

_____________________________________


 その時、男はとある場所でパソコンを使い実験の準備をしていた。

 男はここ数日間、睡眠を一切取らず、街中で殺されたモンスターのデータを元に、次の実験体の更なる改良を行なっていた。

 そして、終了する。


「ふぅー、終わったー。よーやくだよ緊急の最終調整やったの、疲れるよぉ」


 クマの付いた顔を上に向けながら男は呟く。


「いやー予想外予想外。まさか僕の実験体が、開発途中とはいえ、普通の人間に苦戦するなんて、誰が予想するよ。でもまあいっか。お陰で改善点が見つかったから結果オーライかな。でも擬態モンスターって、基本的に普通のモンスターよりも頭が良いんだけど、改良しすぎてバカになったようだな。まあ良い勉強になった。だから今回は普通のモンスター使うよ」


 笑みを浮かべながら呟き続ける男に、黒いスーツを着た男が近寄る。


「お、刻長ときながちゃんじゃん。また人の研究室に勝手に入ってきてさぁ」


「キャラベル博士、少しは危機感というものを持った方がいいんじゃないっすか?」


「危機感? そんなもの持つ必要ある? ただ焦るだけだよ」


「貴方の場合、焦らなすぎて寧ろまずいんっすけど」


「ああそうだねー。今回の、超ヤバいからね。さっさと作らないきゃこっちが危なくなるよね」


 そう言いながら、キャラベルはビデオカメラを取り出し、刻長に渡す。


「じゃ、前みたいに記録よろしく、助手ちゃん」


「その言い方やめてもらえます? 気持ち悪いっす」


 男は私終わると再びパソコンをいじりだす。


「10分後に解放するから。あ、そうだ、透明マント持っていっていいから」


「光学迷彩装置っすね。前も持たせてくれたらよかったのに」


「硬いこと言わない。さあ行く」


「うっす」


 刻長は軽く返事をすると、部屋を出て行く。


「よし、じゃあ解放の準備しますか。今度はどこまで暴れられるかなー」


 男は再び笑みを浮かべながら、カタカタとパソコンを打ち始めた。

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