第9話 研究所
ん? なんだ、ここ。
どこだ? いや、何か、懐かしい気がする。
これは……
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「お母さん!」
俺は顔を真っ赤にしながら、母さんを呼んでいた。
「えぇぇぇぇん! えぇぇぇぇん!」
近くでは5歳の妹が泣いている。
7年前の、あの時の直前か?
「どうしたの?」
台所で昼ごはんの準備をしている母さんが俺に訊いてくる。
「春香が俺のプリン食べたんだ! 俺のだったのに」
「もう、仕方ないでしょ。許してあげなさい」
「嫌だよ! せっかくの楽しみを取られたんだよ! 許せないよ!」
ああ、確かこの頃の俺はすごい短気だったな。
何かあればすぐに怒る。ほんと酷い性格だった。
「隼人」
母さんは脚を折り、俺の身長に合わせる。
「いい? これからの人生、そんな意地ばっかり張って人に謝らないと、後で取り返しのつかない事になるかもしれないのよ」
「そんな事分かんないよ! 結局は春香が悪いんだし」
「けど泣かせるのはダメでしょ」
「でも……」
俺の目に涙が浮かびだす。
「ね、だから」
「嫌だ嫌だ嫌だ! 絶対謝らない!」
そう言うと、俺は部屋を飛び出していった。
「隼人!」
母さんは叫び、俺を引き止めようとしたが、もう遅いようだった。
……あの時、素直に謝っていればよかったと、今でも後悔している。何故ならこの数時間後に、俺の故郷は消え去ったからだ。
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「ウッ……眩し」
俺は目を覚ます。
天井に設置されている病院で見るような強力な光を出す電灯が、俺を照らしていた。
「こ、ここは?」
周りを見渡すと、たくさんの電子機器が並べられていた。他にも謎の液体が入ったフラスコや、カップ麺の空など、色々なモノがあった。
とりあえず、明らかに病院ではない。
こんな無加工な壁のコンクリート、病院だとしたらすごく殺風景だ。
となると、本当にここどこだ? 記憶は、水音を逃したあの時で切れている。
俺が周りをキョロキョロと見ていると、部屋の扉が開き、
「お、目が覚めたか」
20代前半の若い女性がカップラーメン片手に部屋に入ってきた。
「いやー参ったよ。まさか3日間も寝ているなんて。誤算だった」
「あの、ここは」
「ここは私の研究所、て言ってもすごく狭いけど」
そう言いながら彼女は置いてある椅子に座る。
「研究所? 貴方は?」
「ああ私?
「波雲、博士……そ、それで俺は何故ここに? 俺の記憶はモンスターと戦う直前までしかなくて」
「記憶飛んじゃったか。じゃあその記憶の続きを軽く話そう。君はモンスターと戦って瀕死の重症になった。けど駆けつけたセイヴァー奈々によって助けられたんだ」
奈々が? って事は水音は奈々に助けを。よかった。ん、ちょっと待てよ。
「でもなんで俺は病院じゃなくて研究所に? わざわざなんで」
「ああそれは君がモンスターの毒にやられてたからさ」
「毒に?」
「ああそうさ。君が戦った、あー記憶無かったか。蜘蛛のモンスターと戦っていた君は、遅効性の毒ガスを吸い込んで体を蝕まれてたんだ。一般の病院にはモンスターの毒の解毒剤なんて周ってないから、仕方なくモンスターの研究をしているこの私が君を預かったのさ」
ああ、なるほどそういう事か。
「安心したまえ。もう解毒した。それより体調に問題無いか?」
波雲博士はそう俺に訊くのと同時にカップラーメンを食べ始める。
「はい。まだ少し傷が痛む程度ですが」
「それはよかった」
すると波雲博士は床に落ちていたカップラーメンを俺に差し出し、
「食べるか?」
と聞いてくる。
……おかしくないか?
「あの、起きたばかりでしかも一応患者みたいな扱いの俺の食事カップ麺でいいんですか?」
「なんだ? いらないのか?」
「いえ、そうじゃなくて、問題無いんですか? 胃とかに負荷かかるんじゃ」
「生憎、こういうものしか無くてな」
残念そうに博士は言う。
床に散らかっているカップ麺の空、なんか生活感漂うこの部屋。まさか、
「波雲博士、料理しないでこんなものばっかり食べてるんですか?」
「ッ⁉︎」
あ、大正解。
「ケホッケホッ、わ、悪いか⁉︎」
「悪いですよ。これだと体調に影響が」
博士は頬を赤らめる。
「……分かっている。けど、できないものはできないんだ」
「研究はできるのに?」
「そうだ。そんな私にとって、カップ麺は最後の希望なんだ。美味いし」
分からなくもないが、これは酷すぎる。
俺は体を起こす。
「せめて食べ終わったものくらいは片付けましょう。手伝いますから」
「ウッ、そ、そうか。なら、お願いしようか」
「後、上の服あります? さっきだけ上だけ裸で寒いんですけど」
俺だけだと思う。
入院していた部屋で散らかっている他人のカップ麺を片付ける患者なんて。
逆に、他にいてたまるものか。
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