第3話 朝からもうキツい

「ウ……もう朝か」


 俺はカーテン越しで差し込む日の光で目を覚ます。


 寝た筈なのに、疲れが取れていない。完全に寝不足だ。

 その原因の1つは、恐らく床で寝ていたからでだろう。

 何故ここで寝たのかというと、いつも俺が眠っているベッドに、スライムを寝かせたからだ。


 流石に床で寝かせるわけにもいかないしな。


「ッ? あー、寝ると戻るのか」


 ベッドの上を見てみると、一応着せておいた俺の服があり、着ていた筈のモンスターは人の形ではなく、いつものスライム姿に戻ってしまっていた。


 気を張っていなきゃ擬態がとけるのか。


「はぁぁぁぁ疲れたぁぁぁぁ」


 何故俺がここまでなる程疲れてしまっているのかを説明しよう。


 まず、あの場所から家に帰るまでがキツかった。

 人の形とはいっても元はスライムなので、二足歩行が出来る訳がない。

 スライムの姿で移動させる訳にもいかないので、人の姿のまま抱えて帰る羽目になった。


 次に、帰ってきた時だ。

 流石に汚いまま家を散らかされたくはなかったので、風呂に入らせた。

 その時に問題が起きた。

 スライムが体の洗い方を知っている筈がないと。

 スライムの姿で俺が洗ってやろうとも思ったのだが、中々その姿にならなかったので、入れるまでに数十分かかった。


 寝かせる時も、ベッドの上で寝かせたのだが、人の姿のままゴロゴロとベッドから降りて部屋を回っていたりしていたので眠らせてもらえなかった。


「……風呂で見た時も思ったけど、表面ツルツルだな」


 俺はスライムの肌を手で撫でる。

 そのツルツル感は、まさにゆで卵だ。


「めっちゃプニプニだし」


 更に突っつく。

 中は液体で構成されてるからだろう。ならプニプニなのも納得できる。


「って、何やってんだ俺。モンスターを変に触ったりして」


 俺は手を引っ込める。

 すると、スライムは急に動き出した。


「ん? 起きたか?」


 俺のちょっかい的なものに反応したようだった。

 そして再び人の姿に変化する。


「あ、服服」


 俺は、スライムに脱げていた服を、目を背けながら再度着せる。


 流石に、俺の服じゃダメだな。

 今度こいつの服買いに行かなきゃ。

 それに、どうしようか。

 今後もこいつを保護し続けるか?

 それとも、この関東第四都市の外に放すか? まぁそれが1番だろうな。


 そんな事を考えていた時だった。


 ピンポーン


「……あ」


 あれ、そんな時間だっけ? まだ時間は。


 俺は部屋に掛けてある時計を見る。

 針は6時30分を指しており、まだ7時ではなかった。


「やっぱりまだ時間じゃ……まさか!」


 俺は自分のスマホの時計を見る。

 スマホのズレる筈のない時計は、7時過ぎを記していた。


 時計壊れてた⁉︎


「ま、まずい! こいつ隠さなきゃだ!」


 特に見られてはいけない奴に、見られる訳にはいかない。

 俺は、スライムをどうにか部屋の何処かに隠そうとする。

 しかし、スライムは一向にその場を動こうとしない。寧ろ二度寝をしようとしている。


「うぉーい! 寝るな!」


 再び眠りに落ちないよう、俺はスライムの肩を揺する。

 どうにか目を開けたようだが、未だにボーッとしている。


 ピンポーン


「だぁぁぁ! まずい、来る。あぁもう! いっそのことこいつを抱えて」


 俺は人の姿のスライムを抱え、風呂に隠そうとする。

 その時、


 カチャ


 ……鍵が開く音がした。


「隼人君、大丈夫? 入るよ」


 扉の外から、聞き慣れた女の声がする。


 そして、扉が開かれた。


「おはよう隼人君。さっきから大声で何して……」


 入ってきたのは、俺の幼馴染であり、隣人である光原 奈々ひかりはら ななであった。


 その時の数秒間は、沈黙が空間を支配した。


「や、やぁ奈々。か、鍵をで開けるなって、何度も言っただろう?」


 沈黙を震える声で断ち切る。


「は、隼人君。そ、その子はどちらで」


 奈々もまた、震える声で訊いてくる。


「え? あ、えっと」


「昨日はいなかったよね。その子。ま、まさか誘拐してきたとかじゃ」


「違うわ! 俺はロリコン犯罪者か!」


「じゃ、じゃあ誰? その子?」


「あ、あー……」


 誰と言われましても、スライムなんて言える訳ないだろ。

 どうする俺? どう誤魔化す?


「……い、従姉妹……です」


 これで誤魔化せるか?


「従姉妹? ……」


「はい。そうです……」


 バレるな……バレるな……バレんな!



次の投稿は明日の3時頃を予定しております

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