第2話 擬態モンスター

現在位置 廃墟裏


 俺は今、影を追ってとある廃墟の裏に来ていた。


 その追っている影は、明らかに人間ではないモノだ。


「はぁ、はぁ、何処行った?」


 そして見失った。

 暗くて役回りが見えないのが原因だろう。


「そうだ、スマホの光で」


 俺はポケットに手を突っ込み、スマホを取り出す。


「ライト機能を使えば……よし、これで」


 スマホの裏から放たれる光で、暗闇を照らす。

 すると、スマホの光のお陰で、俺はある事に気が付いた。


 なんと地面に青い液体が垂れているのだ。


「なんだこれ」


 見た感じだと、まだその液体は広がり続けている様だ。

 つまり、ついさっき垂れたモノだと考えられる。


 それだけじゃない。

 その地面に垂れている液体は、暗闇の奥まで点々と続いていっている。


 まさか、あの生き物の体液か?


「追ってみるか」


 俺はその続いている体液を追っていった。


 液体は数十メートル先まで続いており、進むにつれてその垂れている量が多くなっている事が分かった。


 更に、それは茂みの中まで続いている事も。


「この中か?」


 俺は音があまり立たない様にゆっくりと茂みを掻き分け、茂みの中を覗き込む。


 丁度、雲の隙間から月の光が差し込んできたので、スマホの光無しでも一応見えようになった。


「ッ⁉︎」


 その茂みの中に、ぷよぷよと動く青い物体を発見。


 何だあれ……ま、まさかスライムか?


 俺の予想は的中、ジャンプしながら動くその姿は、まさしくモンスターのスライムであった。

 そうなると、恐らくあの液体は、スライムの体の中にある体液、血のようなモノだ。


 確か、スライムはモンスターの中でも唯一人を襲わないんだったよな。

 けど、モンスターはモンスターだ。野放しには……


「え?」


 その時、俺は目を疑った。

 なんと、目の前にいたスライムの形が、人の姿に変わっていっていたからだ。


 当然、雑魚中の雑魚であるスライムにそんな能力は無い。


 だが目の前では普通のスライムではありえない事が起こっている。


「まさか、【擬態モンスター】か」


 【擬態モンスター】とは、ここ最近、ハンターズ達が稀に遭遇するモンスターの事だ。


 その名の通り、自分の姿を、存在している人間の姿を真似て、変化させるモンスターだ。

 原理としては、モンスターが人間を捕食する事で出来るようになるらしい。


「あ……」


 スライムは、ものの数秒で人の形へと変化した。


 その姿は、10歳前後の青髪の少女であった。


 損傷している脚を折り畳み、スライムは座り込む。

 そして周りをキョロキョロと見回す。


 ……すると、茂みの外から中を覗く、俺と目と合った。


 ッ⁉︎ まずい!


「チッ」


 俺は目が合った瞬間、茂みをバッと掻き分け、スライムの前に立ち、退路を塞いだ。


 見つかったが、もう逃げ場は無い。スライムくらいなら、俺でも殺せる。

 やってやる、やってやるぞ。


 そう、思っていた時だった。


「え? ……なんだ……」


 目の前にいる化物の瞳から、涙が溢れ出した。


「……何だよその目」


 モンスターが、泣いた?

 そんな事……ある筈ないだろ。

 普通に考えたらありえない。

 たとえ人の姿になっていたとしても、涙を流すなんて。

 罠か、罠なのか?

 けど、スライムの肉体に涙を流すなんて機能は無い。

 自然に流れ出たのか?

 なら、作り物の涙なんて流せる筈がない。

 涙を流した事なんて、ないんだから。


「お、おい」


 俺はスライムに歩み寄る。

 すると、スライムは少女の体で座り込んだ体をズルズルと引きずりながら後ずさる。


 体が小刻みに震えている……怯えているのか?

 モンスターが怯えるのか?


「けど、お前は、人を喰って、その体を……?」


 ここで、俺はある矛盾点に気がつく。


 待てよ、そもそも、スライムは人に危害を与えない。

 なら、人を喰っていない? いや、喰う筈がない。

 じゃあ、この身体は……あ、そういえば、あの擬態化する条件、確かまだ正確な実験結果が得られている訳じゃないから、仮説で止まっていた筈だ。


 なら、こいつは、誰にも危害を与えずに、この姿を得た事になる。


 という事は、仮説自体間違っているって事じゃないか。


「そうなると、こいつには……罪は……無い……けど、モンスターは人類の敵だ。殺さなきゃまた……でも、こいつは、人に危害を与えない……安全だ……だけとモンスターであって……クッ、生き物は生き物だ。ダメだ。俺にこいつは、殺せない」


 ついさっきまで、殴り殺そうとまで思っていた俺が出した決断だ。俺自身驚いている。

 まさか、見逃そうなんて考える事になるなんてな。


「けど、流石にその格好はダメだろ」


 俺は、制服の上を脱ぐと、目の前の奴に羽織らせた。

 来週から夏服移行期間だ。夏の間にまた新しいのを買わなきゃだな。


「じゃあな。頑張って生きろよ」


 伝わる筈のない言葉を投げかけ、俺はその場を立ち去ろうとする。


 すると、


「ん?」


 ズボンの裾を、何かに引っ張られた。


「は?」


 それは、たった今上着をあげたばかりの奴だった。


「な、なんだよ」


 当然、喋れる筈はない。

 しかし、代わりにその雑念1つ感じられないその瞳を向けてくる。


「ま、まさか、着いてきたいのか?」


 頷く筈もない。

 だがしかし、瞳は一層、輝きを強める。


「ウッ、けど流石にそれは」


 家に連れて行くのはリスクしかない。

 それに家にモンスターを連れ込むのは気が引ける。


「でも、このままにしておくのもなー」


 このまま放置しておくと、さっきの警官とかに見つかって殺される可能性がある。


「あーもう。連れて帰る以外方法無いじゃないか」


 その後、俺はスライムを連れ、家に帰った。


 あー明日からどうしよう。



次の投稿は本日4時頃を予定しております

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