9月27日
木曜日。曇りのち晴れ。どんよりと生ぬるい一日だった。
鼻歌を歌う青白い花柄の妖怪出没――という噂は立たなかった。目撃者なし(チェッ)。あいつは深夜の邂逅を周りに打ち明けなかったのか。ふーん。もっとも、喋ったら当人だってそんな時刻に何をしに部屋を出たのか釈明しなきゃならないから黙っているのかな。誰かと密会したかもしれないし、こっそり胡乱なクスリをキメたのかもしれないし……。
何だかんだあいつを意識しているよね、あたし。加納さんの言うとおり。いっそ男だったら(おお汚らわしい!)堂々とあいつを好きだと言ったり、逆にこっぴどく傷つけてやったりできたろうに。嫌だ、今ちょっとだけ、屁理屈をこねて自己弁護しながら女に暴力を振るうゴミ
そんなことより腫れた足首が気になる。保健室で余分に湿布をもらったけど……明日の体育は大丈夫だろうか。どうして同じところを繰り返し傷めちゃうのかな。あのゴロツキをブッ飛ばしたときもそうだった。勢い余って倒れかかったところを踏ん張るつもりだったのに、グギッと。ヤツは頭を打って前後の記憶が曖昧になり、直後に戻ってきたママはあたしの言い分を信用したから(故に親として及第点を与えてやったのだ。それでもいまだに別れていないのが理解に苦しむ点)「未来の義父候補が満を持して襲ってきた説」が通った。本当はちょっぴり水を向けてやったのさ。クスクス。ただ、バタバタして手当てが遅れたせいか、頑固なしこりのように痛みが残り、かばう調子で動くほどかえってトラブルを起こすのだわ。
元々大した才能はないと自覚していた。だから、わざと自分を不幸にしてリセットしたかった。諸々のしがらみから切り離されて遠くへ行って、ずっと我慢していた甘い物だって、ためらわず思う存分食べてみたかった。なのに、ここも理想郷ではなかったし、離れている間にサツキさんは別の子に奪われてしまったみたいだし、あたしは芋虫の時期を経て夏を迎え、蝶になるはずが、蛹の中ではち切れんばかりに肥って動作が鈍り、それでいて今更バレエの世界に戻りたくてブザマにもがいているだなんて……みじめだ。
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