9月25日


 火曜日。晴れ。朝は寒い。


 昨日の今日だけど、加納さんが急によそよそしくなった気がする。著しい温度差を感じたのだ。の悪口を言ったのがマズかったかな。ただ、彼女は単に噂話が嫌いな人であって、実はスパイだから今頃告げ口しているだなんてことはない……と信じたい。ひょっとして、あたしに一抹の好意を抱いていたからああしてお茶に招いたり、その場のノリでキスしてくれたりしたのに、幻滅されちゃったのかしらね。酒は怖いなぁ。アプリコットブランデーの酒精度は20数パーセント。ほんの何滴かでもあんな風に口が軽くなっちゃうんだから、気をつけないと。

 ママの愛人も別れた後に死んでしまったパパも、お酒が好きというより憂さを晴らすために酔郷へ逃げようともがいて泥沼にはまるタイプだった。飲むのではなく飲まれている印象。だからみっともなかった。


 調べ物をしていてカフェロワイヤルというコーヒーの飲み方を見つけた。火を点けて燃やして混ぜて飲んでしまうってところが痛快。何を? 頭痛の種を。みんなまとめて火あぶりにして。もうケーキやフレンチトーストは不可能でも、加納さん、せめてこれを作ってくれないかな。コーヒーカップに差し渡す専用のスプーンが要るんだって、ストッパーつきの。先端につのが生えたような形をした――。おばあちゃまに頼んで買ってもらおうか……って、ああ、もう死んじゃったんだっけ。どうも実感が湧かない。好きだった人の死を受け入れられなくて目を逸らすというより、あたしが感じ取る世界の空気と他人の認識がズレている気がする。もしかして、あたしはブランデーまみれのグズグズした角砂糖で、誰かがフッと息を吹きかけたら苦い暗闇にもろくも崩れ落ち、跡形もなく消えてしまうんじゃないだろうか(じゃあ、誰が飲むの、そのコーヒーを)。


【引用】

 そして夜になる。夜になると怖い。まずは眠れない恐怖がある。(倉橋由美子「夜 その過去と現在」)

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