9月8日


 土曜日。晴れ。


 午前中だけ授業。暑いので――冷房が入っているとはいえ――みんなダラケていた。午後はクラブ活動、その他。と言っても、あたしには関係ない。義務でないどころか、この学校はいじめの温床になりがちだからと部活動非推奨。但し、絵画や音楽、あるいは軽い屋内スポーツであれば、希望者が集まるなら教諭が監督してくれるといった具合。

 意味もなく建物の中を歩き回ってサツキさんを想っていたら、調理室から甘い、いい香りが漂ってきたので、つい足を止めてしまった。ちょうど扉を開けて顔を出したのが同じクラスの加納さんで、満面の笑みで手招きされた。部外者にも味見してほしいから是非……と誘われ、何の手伝いもしていないので少し気がとがめたけれど、同輩が更に二人現れたので遠慮するのはやめて、ご相伴にあずかることにした。

 リキュールやエッセンスや香辛料のボトルが整然と並んだラックの眺めは壮観だった。

「紅茶はティーバッグだけど。高砂さんはどのフレーバーが好き?」

 いくつか種類がある中からシナモンティーを選んだ。やや武骨なマグカップはアマチュアの創作を思わせたが、温かみのあるデザインで悪くなかった。卒業した陶芸クラブのメンバーの置き土産だそうだ。ごちそうになったのはイチジクのコンポートを使ったタルト。手が込んでいる。

「すごいなぁ、こんなに立派に作れるなんて……」

 通称〈スイーツ倶楽部〉最年長でリーダーの加納さんはウフフと笑って、卒業までにどんどん難易度を上げていくのだと気炎を吐き、仲間たちが歓呼の声で応じた。あたしはといえば、彼女らの集まりに加わりたいとは考えなかったが、素直に感心していた。

 サツキさんは画家志望で、加納さんたちはおいしいケーキを作り、後々まで役に立つ器を焼いた先輩方がいて、は――褒めたくはないが――ピアノが得意。は何が上手にできるんだろう。そして、踊れなくなったあたしは……。


【備忘】

 今度おばあちゃまに気の利いた紅茶セットを頼むこと。

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