9月4日


 火曜日。晴れのち曇り。


 休み時間、クラスメイトたちは寄ると触るとはるか彼方で開業したアミューズメントパークの話題。夏休みが終わってからオープンなんて、ずいぶんだわ、実家にいる間に行ければよかったのに……などなど。冬休みまで我慢しなさい。

 それより、はまだなのかしら。従姉のが差し入れしてくれた雑誌で読んだホラー漫画を思い出す(書籍だけは、ほぼ無検閲で寮生の手に届く。荷物の形状と重さが不自然でなければ。だから、その中に小箱を仕込ませ、見つかったら物議を醸しそうな代物を送ってもらう子もいる……)。想定外の宇宙旅行に連れ出される話で、ヒロインは恐怖におののいていたが、あたしなら狂喜乱舞すると思う。軌道に乗って地球を周回し、電磁波に紛れ込ませて地上に怨念を放ってやるのだ……。


 家や元の学校が嫌で、この寄宿舎に来て気が楽になるはずだったのに。目ざわりな。いや、この言い方は的を射ていない。編入したときは、とうに女王として君臨していた。だけど、あたしが間違ってふさわしくない場所に紛れ込んでしまったとは考えたくない。

 まあ、あと半年ばかりの辛抱だ。あいつは高等部に進まず、留学するという話だから、中等部の卒業式が終われば顔を合わせなくて済む。夏休み中に現地の下見に出かけたらしいと誰かが言っていた。どこへ? なぜそんなことが気になるのだろう。生徒の多くは犯罪被害者になる蓋然性が高いと見込まれるか、既に何らかの痛手を受けてしまった子で、ここは格好のシェルターなのだ。誰もが少なからずダメージを負っている。なのに、あいつは違う。詳しくは知らないが、別の理由で送り込まれたのようなもの。だから優雅で伸び伸びしていて、時折あたしたちに憐れみの目を向ける。うっすらと慢侮の色を滲ませて。あたしはあいつ一人が翼に傷を持たないことが妬ましいのか。それともうらやましいのだろうか。そんな馬鹿な。


【メモ】 慢侮(まんぶ):あなどり軽んじること。

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