第2話 鼓動
僕の部屋は月光に満ちていた。また、手術のために入院しないといけない。僕の家は町側にあるから海は見えないけれど、波の音は昼も夜もずっと聞こえている。僕の心臓とおんなじ。共鳴するみたいに、絶え間なく響いている。
僕が重い病気になってから、家族は僕の負担を減らすために、この海の側の丘の街から、病院のある丘下の町へ引っ越そうとした。病気の体で石畳の丘を上るのは大変だから。だけど、生まれてから十三年間暮らしてきたこの美しい丘の街から離れたくなくて、僕はここに残りたいと我儘を言った。家族は渋い顔をしながらも僕の気持ちを汲んでくれた。
お父さんとお母さんが育った白い石畳の丘の街。僕が大人になるはずの丘の街。綿々と打ち続ける鼓動。掌を当てると薄い胸板の底から打ち返してくる。あったかいというよりも、マグマのように熱い。
僕は枕元の巻き貝を取った。七歳の双子の妹がお守りだといってくれたものだった。耳に当てると波の音が聞こえるらしいのだけれど、僕の感受性が捻くれているんだろう。波の音は聞こえない。貝殻自体が海の命のようなものだから、別に音はしなくていい。ざらざらした硬い貝を抱いているだけで、海と繋がれるような気がした。
窓の外には消えることのない丘下の町の明かりが煌々と見えていた。クラゲの群れが水底に蹲っているようだった。
僕は今日、眠れない。月光と町明かりの狭間で、海の命を抱いている。
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