第33話 カレンの魅力

 ベティーでの三ヶ月目が半分過ぎた頃。

 なんと瀬奈は、カレンと話をするようになっていた。


 本当は話なんてしたくなかった。

 今までは距離を取ったり、目をそらしたり、出来る限り接触を避けていた。


 大きなきっかけはなかった。

 しいて言えば、瀬奈はこの月から出勤を増やすようになったので、カレンが瀬奈の顔を覚えたというだけだった。


 残念ながら、カレンはとても良い子だった。


 彼女は瀬奈に恨まれているなんて露知らず、待機室で会うと、気持ちのいい挨拶をしてくれた。

 カレンはムードメーカーで、瀬奈が部屋の隅でわざと皆の会話に入らないようにしても、気にかけて会話に混ぜようとしてくれた。

 それは瀬奈だけでなく、元気がなさそうな娘いたら誰にでも同じようにしていた。


 もっと嫌な女だったら楽になれるのに。

 瀬奈は無視する方が難しくなった。


 二十一時、カレンがあがる時の事だ。

「どっちがカレンちゃんのだ?」

 店長は両手の拳の中に、二つの鍵を握り隠していた。


「っしゃ!当ててやろうじゃないの!!」

 カレンは腰に手を当て、それを睨んでいる。

 可愛らしい見た目に反して、声だけはハスキーで少年のようだった。

 店長も気を許しているせいか、二人が戯れている様子はまるで兄弟のようだった。


 絵に描いたように元気な少女で、まだ何も怖いものはない十九歳。

 瀬奈には眩しかった。


 しかしカレンは、可愛いだけが取り柄の女じゃなかった。


「とにかく楽しんでないと病むから!

 テンション下がりそうになったら、とにかく踊る!」

 というのが彼女のモットーだった。

 それは口だけでなく本当に実践していたから、周りを驚かせた。

 プレイ中に好きな曲が流れると、プレイを中断し、客にまで一緒に躍らせた。

「今日も〜お前は〜いい波乗ってんね〜!ほら、手ちゃんとうねらせて!!」

 結果、客も楽しそうなので、店長も彼女の好きにさせていた。


 カレンが休憩時間に大好物のナポリタンを食べ過ぎた時には、案の定プレイ中に気持ち悪くなってしまった。

 素直なあまりに「ナポリタン出ませんように!」と、フェラチオしながらお祈りを口に出してしまい、客を笑わせる事もあった。


 それらのエピソードには、瀬奈も思わず噴き出した。

 容姿の可愛さだけでなく、そんな人柄が愛された。


 カレンは待機室で、他の女の子達と客の愚痴を零す事があった。


 どうか、亮太の事も気持ち悪い男だと思ってくれていますように。

 瀬奈は密かに祈った。


 悔しくもカレンを尊敬してしまったのは、彼女が客をどんなに悪く思ったとしても、笑いに変えて乗り越えていこうとする姿勢だった。

 嫌な客がいれば素直に凹む。

 しかし次の日には笑いのネタに作りかえた。


 彼女は、女を売りにしようとはしない。

 可愛いと言われるより、笑われる方が嬉しそうだった。

 自分らしさを貫くのは、ゆりにも似た強さだった。


 亮太が彼女に惹かれるのは、ただ美人でエロいからじゃない。

 納得の魅力だった。


 可愛いのに面白いなんてずるい。

 認めたくはないが、近頃は瀬奈も彼女を好きになりかけていた。


 笑わせるという行為が、恐ろしいと感じたのは初めてだった。

 どんなに可愛いらしくても、彼女がひょうきんに振る舞うと、色気が消えて安心したくなった。


 しかし、亮太を奪われかけた事を決して忘れてはいない。

 このままカレンに惹かれてしまうと、自分自身を許せなくなりそうだった。

 瀬奈はカレンのそばにいるだけで、心が逆方向に引きちぎられてしまいそうだった。


 

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