第26話 キスする心

 瀬奈は、ゆりの教えに忠実に従った。

 プレイをする時、頭の中にはいつもゆりがいて、お守りみたいだった。


 一人じゃないと思うと、自然と気持ちが明るくなれた。

 改善点や目標が分かると、どうしたらいいのか、プレイ中に考える事が出来る。

 それは大きなメリットになった。

 瀬奈が苦手な触られる時間に、肌の感覚から集中力を奪えたからだ。


 客は大きく分けて二通りいた。

 恋人のように接したい人と、性処理の為に来た人。


 後者は会話すら、面倒くさそうにする人がいた。

 その方が割り切っているし、瀬奈は罪悪感が湧かないから好きだった。


 しかし必要なのは、前者だった。

 感情移入してくれた方が、本指名に繋がるからだ。


 前者の特徴は、キスを大事にする。

 その時間も長い。


 瀬奈はキスよりも、フェラしている方が楽だった。

 フェラが好きという訳ではない。


 咥えすぎて、その舌触りは体の奥まで染みついていた。


 電車に乗っている時、男の匂いを嗅ぐだけで、その感触がふと生々しく蘇り、気持ち悪くなる事もあるくらいだった。

 ただ、物として捉えられるのはよかった。

 一物自体に表情や感情はない。

 勃起は生理現象だ。


 キスに、客は心を感じるようだった。

 瀬奈は客に、どうして店に来たのか尋ねると

 「最近キスしてないなーって思ったから」

 という答えが返ってくる事は少なくなかった。

 もちろん、射精はしたい。

 でも心が癒されたり、孤独から逃れる為には、射精だけじゃ足りない。


 心が触れ合える事でしか、解消出来ないのかもしれない。

 彼らは唇の触れ方に意味を求めた。


 しかしキスは、瀬奈にとってどうしても乗り越えられない壁だった。

 元彼が、瀬奈の顔にタオルをかけて隠したのも、今となっては気持ちが分かる。


 顔があると、相手を認識せざるを得ない。

 「亮太じゃない」

 その罪悪感が瀬奈を襲い、苦しめた。

 それだけは、ゆりの行動の真似で回避出来なかった。

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