第16話 初めての自信
「初めまして、ミルクです」
その日七度目の、初めまして、だった。
勤務開始から五時間が経ち、瀬奈はかなり疲れていた。
無理につくった笑顔が不自然じゃないか、自信がなかった。
「君、新人さん?」
五十代のスーツ姿の男だった。
「そうです」
「へえ、こんなに可愛い子が入ったなんて、嬉しいな」
「え?!」
瀬奈は思わず耳を疑った。
「よく言われるでしょ。肌も綺麗だし」
瀬奈は、曖昧に微笑んだ。
初めて客に褒められた。
自分の容姿を褒めてくれたのは、矢崎だけだった。
眼鏡の客が、瀬奈がシートに着いた途端に、そっと眼鏡を外す事はよくあったし、目をつむってプレイする客もいた。
その嫌味っぽい態度に、初めは傷ついたが、もう慣れっこになっていた。
今日褒められたのには、顔の大きさを隠すようなボブにした効果もあると、瀬奈は手応えを感じた。
男は、ゆっくりと制服を脱がせた。
瀬奈が一物に触れようとすると、
「待って、もっとこうしていたい」
と、手を止めさせた。
そして、彼女の身体のラインをそっと指で辿り、目に焼きつけるように、ただ眺め続けた。
言葉はなかった。
爆音で流れていたアニメソングが、瀬奈の耳から遠ざかっていくように感じられた。
耳から首筋、背中から尻へとゆっくり旅する彼の指先を、瀬奈は目で追った。
客の体はいつも見ていたが、シートの中で初めて自分の体を観察した。
ブラックライトの青みがかった光は、色彩感覚をぶれさせたが、それはファンデーションのように肌も加工してくれていた。
顔は化粧でごまかせたが、身体にあるニキビやその残った跡、くすみ始めた肌でさえ「白い、綺麗」と自分自身すら勘違いさせられた。
室内全体を唯一明るくするミラーボールは、踊るように不安定だから、照らされるのも怖くはなかった。
私、やれるかも。
瀬奈は、初めて自信を持った。
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