第6話 面接
百万円の借金を返す為の収入は、今の会社の給料からは難しかった。
瀬奈は昔から自分でコツコツと貯めていた貯金があった。
亮太の為にすでに切り崩していたが、三十万程は残っていた。しかしこれは、いつかの結婚資金として貯めておいたものだった。これには手をつけたくなかった。亮太が結婚資金なんて貯めているはずがないからだ。
瀬奈は何より時間が惜しかった。
返済が早ければ早いほど、結婚も早まる。
高収入アルバイトをスマホで検索した。
様々なナイトワークの紹介をするサイトが出てきた。大音量のCMソングを流すトラックを、よく都心で目にした事があったので聞き覚えのあるサイトに入った。
風俗は嫌だったので、まず水商売を調べてみようと思った。
キャバクラの広告がトップに出たが、イメージ写真を見て、瀬奈の選択肢からは即効で外された。
あんな華やかなドレスもメイクも自分に似合うわけがない。
「どなたでもお気軽に面接に来てね」と記載されたスナックなら、自分でも許されるんじゃないかと思ったが、時給千五百円。水商売でなくても働ける金額なので辞めた。
水商売にも様々な形態、雰囲気があった。
その二つの中間のガールズバーはどうだろうか?
検索していくと、店によって時給が大幅に異なった。スナックと変わらない位の所から時給三千五百円の店まであった。
カウンター越しで話すだけで、この金額?
瀬奈は不思議だった。
試しに年齢制限三十歳位までと明記された店に、面接希望のメールを送ると、トントン拍子に面接日が決まった。
当日は、吉祥寺駅前で待ち合わせをした。
黒いスーツをまとった男が近づいてきた。ツーブロックで、黒い髪をオールバックで流している。堅気じゃない雰囲気が滲み出ていた。
男は、店のボーイだった。瀬奈は事務所での面接かと思っていたが、連れて行かれたのは、喫茶店ルノアールだった。
瀬奈は、人一人分くらいの距離を保って移動した。下手したら相手は年下にも見える若さだったが、気まずくなりそうなので聞かなかった。
店専用の履歴書に氏名、住所、家族構成、スリーサイズ、水商売歴、風俗歴、などを記入し、質疑応答へと移った。
「カウンター越しでお話ししたり、簡単なお酒作ったり、本当にそれだけでこんなに時給が高いんですか?」
男が終始浮かべる笑みは、いかにも業務的な感じがした。
「ガールズバーってね、正直、人によって時給が変わるんですよ。なので皆が三千五百円ではないです。店側からは強要なんてしませんよ。ただ、意識の高い子達は皆、店外デートしてます。もちろん枕営業有りですね。最初はご飯だけでもいいです。まあそのお礼として、客は店で金を落としてくれるんですよ」
あたりまえのように話す彼に、瀬奈は隠しきれないくらいに動揺した。
「えぇ、、それは厳しいです…」
瀬奈が無茶をして、そんな現場を亮太や知り合いに見られてしまったら、お終いだ。
「ですよね、これは暇で彼氏いない子でないと、なかなか」
ボーイは苦笑いした。
「お昼から働けて、枕営業とかはなしで、高収入で、そんな都合のいい仕事ってありませんか?」
瀬奈はダメ元で、すがるような思いで聞いてみた。
「そうですね……。ピンクサロン、最近はガールズサロンとも呼ばれているんですけど、ご存知ですか?」
瀬奈は、初めてピンクサロンを知った。
略してピンサロと呼ばれる事が多い。
店舗型で、客にフェラチオで射精させるのが基本サービスの店だった。
客の滞在時間はわずか三十分。
キスやスキンシップなど、その他のプレイの許容ラインは女の子それぞれで決められる。
ボーイの監視下でプレイするので、本番や危険行為、盗撮の恐れは一切無い。
シフトは十二時から二十四時までの自由制。
これらの条件を聞いて、瀬奈は震えた。
やっぱり都合のいい話なんてないんだ。
いくら安全だとしても、見知らぬ男の一物を咥えるなんて、今にも逃げ出したくなるような話だ。
「その他の水商売で稼ぐってのも難しいんですよ。昼夜逆転するし、お酒もかなり飲まされるし。ご家族や彼氏と同棲されてる方だと当然バレるリスクも高くなりますよね」
瀬奈は黙った。
こちらの弱みを見透かされているようだった。
「お見受けした印象ですとキャバクラって雰囲気でもないですし。家族や彼氏にバレないようにとなると、どうしても昼から出来る仕事に限られてしまいますよね。他の風俗と違ってピンサロは時給も出るので収入も安心なんですよ。連絡先交換や同伴もないので出勤した時間だけ集中してもらえれば。あとはご年齢もありますが、頑張る子が稼げる場所です」
そんな風に言われると、瀬奈には、ここしかないように思えてきた。
「あとは瀬奈さん次第ですよ。目標の為に頑張る女の子でしたら、喜んで僕のオススメの店を紹介します!」
彼の意気揚々とまくし立てる様に、瀬奈は驚いた。
冷静に考えれば、自分のようなブスを喜んで採用してくれるなんて、なかなか珍しい事なのかもしれない。
しかし、勢いでこのまま話を進める事に踏ん切りがつかず、一晩だけ待って貰うことにした。
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