第31話
俺は曇り空を見て、この島にも雨が降るのだろうと思った。
ヘルヒノキというのは耐水性にも優れているようだが、雨と潮風に晒されていては、もしかしたら長持ちしないのではないかと考えた。
そして雨が降るということは雷雨もあるということだ。
もしカミナリの直撃なんか受けたら、いくらヘルヒノキとはいえ木っ端みじんになるだろう。
そこで思いついたのが、スライムを塗って防護剤とすること。
絶縁の効果も期待して、ゴムスライムを塗ってみたんだ。
もちろんこれは実験でしかなかったのだが、ジンラインの襲来により効果検証ができた。
その結果は、フォールズの雷すらも防ぎきるという、大金星……!
ジンラインは怒りに任せてカミナリを降らせまくったせいで、フラフラになっていた。
フォールズの力というのは1発の威力が大きければ大きいほど、使用者を消耗させる。
また再使用にはクールタイムと呼ばれる時間を置かなくてはならない。
ようは『重い』ということ。
その点、俺のスライムフォールはとても軽い。
クリアスライムであれば、1日で100匹やそこら降らせたところで何ともない。
学校にいた頃は、クラスメイトに経験稼ぎをさせるために1日に1000匹以上降らせたこともある。
俺はそんなことを考えながら、フラフラになってもなお無駄なカミナリを降らせるジンラインを見つめていた。
まるでただの通り雨でも眺めるみたいに、窓際で頬杖ついて、アンコとともにニコニコと。
「ジンラインのヤツ、まだやってるな」
「いくらやっても無駄なのに……ひとり相撲ここに極まれりですねぇ」
「こんなことがあるわけがない! 絶対、なにかの間違いだっ!
俺の正義の雷が効かなかったことなんて、いままで一度だって……!
くそうっ……! くそうくそうくそうくそうっ……! くそぉぉぉぉぉ~~~~っ!!」
ジンラインは歯を食いしばり、半泣きになっていた。
俺たちのいる家だけでなく、スライムの家や木箱にもカミナリを降らせている。
しかしそれらにも耐雷を施しているので、被害はゼロ。
砂浜がちょっとデコボコになったくらいだ。
やがてカミナリの勢いは衰え、とうとうヒビ割れほどのカミナリも降らなくなる。
力を使いすぎたのか、ジンラインは一気に老け込んだように見えた。
そこでようやく、無駄だということに気付いたようだ。
「ぐぬぬぬっ……! さ、作戦変更だっ!
砲撃だ! 砲撃でスライクをメチャクチャにしろっ!」
甲板に勢揃いしていた兵士たちに命じるも、
「ジンライン様! この船には砲弾は積んでおりません!」
「なんだとぉ!?」
「ジンライン様が、不要とおっしゃったので……!
あの、今から国に戻って補充いたしましょうか?」
「バカっ! そんなことをしたら、いい笑いものになるだろうがっ!
こうなったら……! 白兵戦だっ! 上陸して、スライクの集落をメチャクチャにするぞっ!」
「ええっ!? 『
そんなことをしたら、我々まで生きて帰れません!」
「うるさいっ! あの島が絶望の島なのは、もう過去のことだっ!
落ちこぼれのスライクが今まで生きてこられた時点で明らかだろう!
さぁ、さっさと上陸準備をしろ! この命令を拒否した者は、海に放り出すぞっ!」
ジンラインの命令で、船の上はハチの巣を突いたような大騒ぎ。
兵士たちはあちこち行ったり来たりして、揚陸船の準備をしている。
俺はその様子を、家から出て見物していた。
「あの慌てようは、上陸する予定が無かったんだろうなぁ」
「でも外に出てしまって大丈夫なのですか?」
「サンダーフォールはしばらくは使えないから大丈夫だ。
怖かったら、家の中にいてもいいんだぞ」
「いえ、ご主人様のおそばにいます!
で……これからどうされるんですか? このままだと、上陸されてしまいますが……」
「そうだなぁ」
俺は考えるフリをしながら、砂浜に置きっぱなしだった巨大パチンコの元へと向かう。
ファイヤースライムを1匹降らせて、パチンコにセッティングした。
「ちょっと、スライム兵器の試し撃ちでもしてみるか」
「えっ、その子を撃ち込むんですか?」
「そうだ。船までは距離が遠いから、ファイアボールやジェットカッターは届かないからな」
「なるほど、ならば船までスライムを飛ばしてあげれば……」
「そういうこと」
言いながら、俺は引き絞った巨大パチンコを離す。
……びよよよよ~~~んっ!!
ゴムがしなる音とともに、真っ赤なスライムが天高く舞い上がる。
のんきな砲弾みたいなそれは、おおきな弧を描き、船の甲板にぽよんと着弾した。
その時点では、まだノーダメージ。
忙しそうに行き来していた兵士のひとりが、その存在に気付いた。
「おい、こんなところにスライムがいるぞ!」
「なんだって? ああ、多分スライクの仕業だろう!」
「スライムを船によこして何をしよってんだ?」
「さぁな、『これで許して~』って言いたいんじゃないのか?」
「ハハハハハ! こんな雑魚が和睦の使者とはケッサクじゃないか!
さすがストライク一族いちの落ちこぼれと呼ばれたスライクだけある!」
いつの間にかジンラインも一緒になって笑っていた。
「はははははは! どうやら上陸と聞いてビビったらしいな!
だがもう遅い! 俺をこれだけコケにしてくれて、いまさら許しを請おうなどと!
まずはこのスライムから血祭りだっ!」
ジンラインはがばっと足を振り上げ、スライムを踏み潰そうとする。
俺は叫んだ。
「バーニングボディっ!」
すると、船の上にいたファイアスライムが、起爆スイッチが入ったように炎を吹き上げる。
……ごおっ!
まわりにいた兵士たちはビックリして将棋倒しになる。
爆心地にいたジンラインはズボンがコゲ、パンイチになっていた。
「ぎゃああっ!? スライムが燃えたっ!? 燃えたぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「なんでスライムが燃えるんだよっ!?」
「わからん! とにかく火を消せっ! いや、殺せーっ! でないと燃え移るぞっ!」
船上はスライム一匹を相手に、戦場と化す。
揚陸準備の兵士と消火の兵士が混ざって、てんやわんやとなっていた。
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