第27話

 パチンコによって大幅なさらなる戦力アップを果たした俺たち。

 ヘルゴブリン討伐という初めての戦果にアンコは、ゴムの木に頬ずりしていた。


「木ってこんなに便利なものだとは知りませんでした……えらいえらい。

 木なんて木材くらいしか使い道がないものだと思ってたのに……」


 その何気ない一言に、俺はハッとなる。


 ……木材……。

 そうか、木のいちばん肝心な使い道を、俺はすっかり忘れていた。


「よし、アンコ、これからは木材を集めるぞ」


「はい、ご主人様! キャンプファイヤーをするんですね!

 アンコ、ご主人様とフォークダンスを踊るのが夢だったんです!」


「それも楽しそうだが違う。家を作るんだ」


「い……家!? 家って、ハウスのことですか!?」


 なぜか犬小屋に収まる犬みたいなポーズをとるアンコ。


「といっても犬小屋じゃないぞ。ちゃんとした家だ。

 寒くなるであろうこれからに備えるためにな」


「そういえば、朝起きたとき少し寒かったです」


「よーし、それじゃあこれからは木を重点的に鑑定しまくろう。

 家づくりにいい木があったら、それを採取するんだ」


「はい、ご主人様っ!」


 次の目標を定めた俺たちは、ジャングルの木にスライムを張り付け、手当たり次第に鑑定する。

 しばらく歩き回って、高い木が林立している地帯に入った。


「これは杉の木だな」


「すごい、見ただけでわかるんですか!?」


「ああ。杉の木はいたるところにあるし、見分けやすいから覚えた」


 鑑定してみると案の定、『ヘルシダー』という名の杉だった。

 花粉が普通の杉の100倍ほども出るらしい。


 俺やアンコが花粉症だったら大変なことなっていたかもな。

 そんなことはさておき、ヘルシダーの近くでとんでもないお宝の木を見つけた。



 『ヘルヒノキ』

 魔界において最高の建材とされている木材のひとつ。

 加工がしやすく耐久性にすぐれ、夏は涼しく冬は暖かい効果をもたらす。

 また強い芳香は精神安定の作用があり、この家に住む者は長寿になるという。



 『ヘルヒノキ』……学校の授業で習ったことがある。

 魔界だけでなく、この世界においても最高の建材とされている木じゃないか。


 これだ。この木で家を作れば、最高の住まいができあがるぞ。

 しかもあたりはヘルヒノキの林になっていて、家が何軒も建てられそうなほどに採り放題だった。


 さっそく伐採しようとして、俺ははたと気付く。

 木って、どうやって切ればいいんだ……?


「なあアンコ、この木が切りたいんだが、木ってどうやって切ればいいか知ってるか?」


「簡単ですよ、斧で切ればいいんです! へいへいほー! って!」


「掛け声はともかくとして、その斧とやらはあるのか?」


「おーのー!」


 頭を抱えるアンコとともに、俺は思案する。

 やっぱりここも、スライムに頼るしかないのか……?


 いままは、『捕獲』スキルを使えばどんなものでも採取できた。

 しかしこのヘルヒノキは10メートル以上ある。


 これだけの大きさのものをスライムで覆うのは、今の俺のスキルでは不可能だ。

 俺はスキルウインドウを開き、使えそうなスキルがないか確認する。


-------------------


スライク レベル32(スキルポイント残1)


基本 (スライムを振らせるための基本事項)

 10 数量 (スライムを一度に降らせる数量)

 01 高度 (スライムを降らす高さ)

 01 範囲 (スライムを降らす範囲)


調整 (降らせるスライムを変更できる)

 01 色彩 (降らせるスライムの色)

 01 体積 (降らせるスライムの大きさ)

 01 重量 (降らせるスライムの重さ)

 01 硬度 (降らせるスライムの硬さ)


能力 (スライムの追加能力)

 01 コントロール (スライムを制御する)

 01 体当たり (スライムが体当たりできる)

 01 高温 (スライムの温度を上げる)

 01 低温 (スライムの温度を下げる)

 01 捕獲 (物体を体内に取り込む)


捕獲 (捕獲後にできること)

 02 分離 (捕獲した物体を複数に分離する)

 00 融合 (捕獲した複数の物体を融合する)

 01 吸収 (捕獲した物体を消化吸収する)

 02 放出 (捕獲した物体を体外に放出)

 01 浄化 (捕獲した物体を綺麗にする)

 01 鑑定 (捕獲した物体を鑑定する)

 01 停滞 (捕獲した物体の時間を止める)

 00 過去 (捕獲した物体の時間を戻す)

 01 未来 (捕獲した物体の時間を送る)


履歴 (今まで降らせたスライムの種類)

 クリアスライム、カラースライム、ホットスライム、コールドスライム

 シースライム、ウォータースライム、ソルトスライム、ファイアスライム

 ハーブスライム、ゴムスライム


-------------------


 『体積』スキルに1ポイントを振って、大きなスライムを降らせてヘルヒノキを捕獲するか……。

 しかしスキルポイントはのこりひとつしかないから、失敗したら……。


 俺はひとつひとつのスキルを吟味する。

 スキルの項目にタッチすると、ポイントを費やしたときの変化が確認できるんだ。


 そこで俺は、興味深いものを見つけた。



 02 『放出』 (捕獲した物体を体外に放出する)

  次のポイントで新技取得

  ファイアスライム 『バーニングボディ』

  ウォータースライム 『ジェットカッター』



 ……ジェットカッター?


 俺はその、いかにも切れ味の良さそうな技名に惹かれ、『放出』スキルに残った1ポイントを賭けてみた。

 ウォータースライムを降らせてたあと、目の前にあるヘルヒノキに手をかざして叫ぶ。


「よし、ウォータースライム! ヘルヒノキに向かってジェットカッターだ!」


 すると、ウォータースライムはブーメラン状に変形する。

 力を溜めるように、プルプル震えたあと、


 ……どばしゅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 あたりにしぶきを撒き散らしながら、ソニックブームのような透明の衝撃波を放つ。

 衝撃波は空気を震わせながら、ヘルヒノキの幹を通り過ぎていった。


 発射の迫力に、アンコは後ろでんぐり返しをする勢いで驚いていたが、


「木に当たったのに何も起こりませんね? ウォーターちゃんってば、見かけ倒し~!」


 と、ウォータースライムをつんつん突いてからかっていた。


 しかし次の瞬間、傷ひとつついていなかったヘルヒノキの幹が、ずるり、と滑りだす。

 鋭い切り口の根っこ部分だけを残して、


 ……ずずぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 と地面に倒れていた。

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