第16話
大型のクリアスライムの中身を満杯にしたあと、俺たちはいったん浜辺に戻ることにした。
ずっと不気味な森の中で気持ちを張りつめていたので、骸骨だらけの浜辺でも、なんだか家に帰ってきたみたいにホッとする。
アンコも安心したのか、きゅう、とお腹を鳴らしていた。
「ご主人様、おなかがすきました」
「よし、それじゃあ昼メシにするか」
「わぁい、今日のお昼はなににしましょう!?」
「そうだな、果物や魚ってものいいが……。採ってきたばかりのものはどうだ?」
俺はクリアスライムを見やる。
そこには、たくさんのキノコが浮かんでいた。
「キノコですね! ではさっそく、アンコが毒味を!」
「いや、それはダメだ。キノコは毒味するのがバカバカしくなるくらい、毒を持っている品種が多いんだ。
食って確かめてたんじゃ、命がいくつあっても足りないぞ」
「ではなにか、お考えがあるのですか?」
「うーん、そうだなぁ……」
俺は思案しながスキルウインドウを開く。
森の探索でレベルが6も上がったので、なにか新しいスキルが増えていないかと思ったんだ。
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スライク レベル31(スキルポイント残6)
基本 (スライムを振らせるための基本事項)
10 数量 (スライムを一度に降らせる数量)
01 高度 (スライムを降らす高さ)
01 範囲 (スライムを降らす範囲)
調整 (降らせるスライムを変更できる)
01 色彩 (降らせるスライムの色)
01 体積 (降らせるスライムの大きさ)
01 重量 (降らせるスライムの重さ)
01 硬度 (降らせるスライムの硬さ)
能力 (スライムの追加能力)
01 コントロール (スライムを制御する)
01 体当たり (スライムが体当たりできる)
01 高温 (スライムの温度を上げる)
01 低温 (スライムの温度を下げる)
01 捕獲 (物体を体内に取り込む)
01 分離 (捕獲した物体を複数に分離する)
00 融合 (捕獲した複数の物体を融合する)
01 吸収 (捕獲した物体を消化吸収する)
02 放出 (捕獲した物体を体外に放出)
NEW! 浄化 (捕獲した物体を綺麗にする)
NEW! 鑑定 (捕獲した物体を鑑定する)
履歴 (今まで降らせたスライムの種類)
クリアスライム、カラースライム、ホットスライム、コールドスライム
シースライム、ウォータースライム、ソルトスライム、ファイアスライム
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すると、いかにも渡りに船なスキルが増えていた。
『鑑定』か……。
鑑定のスキルは商人とかの間では普通だが、まさかスライムにその能力を持たせられるのか?
ためしに、1ポイント振ってゲットしてみる。
そしてさっそく、クリアスライムの体内にある、ひとつのキノコを指さした。
「おい、クリアスライム、このキノコを『鑑定』してくれ」
すると、その真っ赤なキノコは縁取りされるように淡い光を帯びる。
わずかな時間の後、クリアスライムの頭上にウインドウが出現した。
『ヘルベニイロダケ』
地獄にのみ生えるという、強い毒性を持つキノコ。
食べると嘔吐や下痢などの消化器官系の中毒症状と、精神錯乱を起こす。
攻撃力アップなどのポーションの原料ともなる。
「毒キノコ、か……」と俺がつぶやくと、アンコは「ふにゃ?」と首をかしげた。
「ご主人様、いつの間にキノコ博士に?」
あ、そうか、このウインドウはスキルの当事者にしか見えないんだった。
「『鑑定』したんだよ。この赤いキノコは毒キノコだから、食べちゃダメだぞ」
するとアンコは水槽の金魚を見る猫みたいに、『ヘルベニイロダケ』をしげしげと覗き込む。
「へぇぇ、そうなんですかぁ~。おとぎ話に出てくるキノコみたいに可愛いのに、毒ありだなんて……。
キノコは見た目によりませんね!」
「お前も大概だけどな」
「ええっ、それはどういう意味ですか!? アンコはキノコだったとしても良いキノコですよ!?
食べたらムクムク大きくなるくらいに!」
なんてやりとりをしながら、俺は採ってきたキノコを次々と『鑑定』する。
それで気付いたんだが、スライムが『捕獲』したものは、スライムの中を自由に行ったり来たりさせられる。
おかげでより分けることができて、未鑑定のキノコと鑑定済みのキノコが混ざらずにすむ。
なかには長時間触ると皮膚から毒が入ったり、衝撃を与えると有害な胞子をまき散らすという毒キノコもあったので、安全面の上でも良かった。
鑑定の結果、食べられるキノコは3割といったところで、あとはぜんぶ毒キノコだった。
この結果に、アンコは戦慄する。
「毒キノコ率、7割って……伝説のバッターですか!?
野生のキノコって、こんなに毒だらけだったなんて知りませんでした!
これならロシアンルーレットをやるほうが、まだマシなレベルです!
アンコが毒味してたら、いま頃はあの世行きだったところです……」
「そういうことだ。だからこれからは、なんでもかんでも食べようとするんじゃないぞ。
特にあの森で採れるものはな」
「は、はいっ……! フォアグラに銘じます……!」
アンコも反省したようなので、さっそく調理を開始する。
といっても、森で採ってきた木の枝を串がわりにしてキノコを刺し、草木の焚火で炙るだけだ。
あとは唯一の調味料である、塩をパラパラっと振れば……。
「焼きキノコの、完成ーっ!」
俺が言おうとしたことを、諸手を挙げて先に発表するアンコ。
受け取った串を、さっそくハフハフしている。
「はふっ、はふぅ、はぐっ。……うっ、うまぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?!?
ごっ、ご主人様、このキノコ、メチャクチャ美味しいです!
お屋敷にいるときにつまみ食いした、どのキノコよりもずっとずっと!
思わずアンコがもうひとり増えちゃうかと思いました!」
「お前、本当に反省してるか? まあいいや、はぐっ……。
って、うまぁーーーーーーーっ!?」
実をいうと、俺はキノコはそんなに好きなほうじゃないんだが、このキノコは別格だった。
ヒノキの木みたいな香りの高さに、裂けるチーズみたいな柔らかさ。
噛みしめると、えもいわれぬ深い味わいが口いっぱいに広がる。
例えるなら、まるで森をまるごと食べているみたいな……。
静謐なのに雄大で、野趣あふれる恵みがこれでもかと詰まった感じ。
アンコが言うように、今まで食べたどのキノコよりも美味しかった。
俺たちは採ってきたキノコを次々と焼いて、ぜんぶ食べ尽くす。
アンコは残った毒キノコを見て舌なめずりをはじめたので、チョップして止めた。
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