第13話
ゼリースライムという朝食を終えた俺とアンコ。
まるで雲を食べてお腹いっぱいになったみたいな、なんとも不思議で幸せな満腹感に包まれる。
しかし俺はその直後、後悔に打ちひしがれていた。
アンコが何事かと、俺の顔を覗き込んでくる。
「ご主人様、どうされたんですか? 全財産の入った財布を落とした人みたいにうなだれて……」
俺がうなだれていた理由はひとつ。
いくら美味しそうだからって、衝動的にスライムを食べてしまったことだ。
実際に美味しかったし、今のところは体調もなんともないが、いくらなんでも考えがなさすぎる。
ここは無人島なんだ。
病院も薬もないんだから、軽はずみな行動は命取りに繋がりかねない。
次からはもっと思慮深く行動しようと決意する。
しかしアンコは脳天気に笑っていた。
「いやぁ、それにしてもスライムってすごく美味しいものだったんですね!
アンコ、すっかり味の虜になってしまいました! ハッ、フッ、ホッ!」
「お前……もしスライムが猛毒だったらどうするつもりだったんだよ。
下手をすると、今頃は死んでたかもしれないんだぞ」
「ご主人様から頂いたもので死ねるなら本望です!
ご主人様になら、たとえ毒手で心臓を貫かれたとしてもパラダイスなのですから!」
「お前はホント、楽観的でいいな」
「いやぁ、それほどでも!」
別に褒めたわけじゃないのに、エッヘンと胸を張るアンコ。
ちぎれんばかりに尻尾を振る犬みたいに、ポニーテールをぱたぱたさせている。
そんな彼女を見ていると、なんだか悩んでいる俺のほうがバカみたいに思えてきた。
そして、不思議とやる気が湧いてくる。
「……よぉし、それじゃあ、いっちょやるとするか!」
「やるって、なにをですか?」
俺は砂浜に仁王立ちになると、森のほうをビシッと指さした。
「これから、森に入る!」
「あっ、いよいよなのですね!」
「そうだ。この浜辺にずっといるわけにはいかないからな」
「そうなのですか? ご主人様のスキルのおかげで、この砂浜でも食べ物はたくさん手に入ります。
お水もお風呂もお布団もありますから、このままでも生きていけるのでは……?」
「確かに今のところは問題ないが、これからが大変なんだ。
これは学校で習ったんだが、『
「ほほぅ。たしかに今は、シーズンオフのリゾート地みたいに快適ですけど……」
俺たちはこの島に来てまだ二日目だが、今のところは非常に過ごしやすい。
今日も日差しはそれほど強くはなく、少し暑いものの乾燥しているのでちょうどいい。
しかし、これからは違う。
「この島は世界の気候とは違う、独自の気候を持っているそうなんだ。
しかも過酷ときている。
これから地獄のような暑さが来て、そのあとはすべてを凍りつかせるような寒さになるらしい。
海も荒れるそうだから、もしかしたら魚も獲れなくなるかもしれない」
「なるほど、だから森に入ろうというわけですね!」
「そういうことだ。
森にはいろんな資源があるはずだから、いまのうちに確保して、来るべき時に備えよう」
「そういうことならさっそく突撃しましょう、とつげきーっ! ……ぐっはーっ!?」
俺は、葉っぱの水着姿のまま森に向かって走り出したアンコを、迷子紐を踏んづけて止める。
っていうかコイツ、わざわざ水着にまで迷子紐を付けていたのか。
「待て、アンコ、そんな裸みたいな格好で森に入るな。そろそろメイド服に着替えろ。
それに、森には間違いなくモンスターがいるから、準備をしよう」
俺はアンコがメイド服に着替えている最中、森に入る準備を整える。
まずは、浜辺に落ちている骨を見繕って、いちばん尖っているものを武器がわりに拾った。
そのあとは『ファイアスライム』を5匹降らせる。
ファイアスライムに『放出』スキルを使えば、火炎放射みたいな炎を吐き出せる。
今のところそれが、俺にとっての最強の攻撃方法なのは間違いない。
しかし森のなかで使ったら、火事になるかもしれないな……。
そう思った俺は、『ウォータースライム』も5匹追加。
俺の目の前に、スノードームをひっくり返したみたいに、粒子とともに水をたたえるスライムが現れる。
これで火炎放射で引火しても、すぐに消し止められるだろう。
しかしふと、あることを思いつく。
「……ウォータースライムの水の放出も、武器にできないかな?」
思い立った俺は、スキルウインドウを開き、残った1ポイントのスキルポイントを、『放出』スキルに振ってみた。
すると、火と水、2種類のスライムたちの頭上にウインドウが現れる。
『ファイヤーボールが使えるようになりました』
『ウォーターバレットが使えるようになりました』
新技の、習得……!?
『スライムフォール』というのはモンスターの
それらの手段によって使役されているモンスターが新しい技を覚えると、こうやって頭上にウインドウが現れて教えてくれるんだ。
世間一般ではスライムの技といえば『絡みつく』だ。
そこからさらに技を覚えさせても『体当たり』までが精一杯とされている。
しかし今、俺のスライムたちはそれ以上の技を習得したように見えた。
スライムの使う技なのであまり期待はできないが、これから森に入るにあたっては非常に心強い。
これで準備は整った、と思っていると、メイド服に着替え終えたアンコが戻ってきた。
「呼ばれて飛び出てジャックナイフ! ご主人様、お待たせいたしました!
あなたの懐刀のアンコが今ここに!」
「お前の破天荒っぷりはたしかにジャックナイフ級かもしれんな」
「いやぁ、また二つ名ですか? 照れるなぁ」
アンコはメイドのくせに二つ名を持っている。
あまりにも猪突猛進なので、『アンコントロールのアンコ』と呼ばれるようになった。
そんな、どうでもいい話は置いておいて……。
俺たちは島の内陸部へと踏み込むべく、総勢2名と10匹で、進軍を開始した。
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