第11話

 これが、今の俺のスキルウインドウだ。


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スライク レベル25(スキルポイント残2)


基本 (スライムを振らせるための基本事項)

 10 数量 (スライムを一度に降らせる数量)

 01 高度 (スライムを降らす高さ)

 01 範囲 (スライムを降らす範囲)


調整 (降らせるスライムを変更できる)

 01 色彩 (降らせるスライムの色)

 01 体積 (降らせるスライムの大きさ)

 01 重量 (降らせるスライムの重さ)

 01 硬度 (降らせるスライムの硬さ)


能力 (スライムの追加能力)

 01 コントロール (スライムを制御する)

 01 体当たり (スライムが体当たりできる)

 01 高温 (スライムの温度を上げる)

 01 低温 (スライムの温度を下げる)

 01 捕獲 (物体を体内に取り込む)

 01 分離 (捕獲した物体を複数に分離する)

 00 融合 (捕獲した複数の物体を融合する)

 00 吸収 (捕獲した物体を消化吸収する)

 01 放出 (捕獲した物体を体外に放出)


履歴 (今まで降らせたスライムの種類)

 クリアスライム、カラースライム、ホットスライム、コールドスライム

 シースライム、ウォータースライム、ソルトスライム、ファイアスライム


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 この島に来るまでは、十何年と生きてきて、やっとレベル21だった。

 しかしこの島で1日過ごしただけで、もうレベル25になっている。


 無人島の生活なんて新しいことだらけだから、それがいい経験になっているようだな。


 そんなことはさておき、俺は『吸収』スキルに注目する。

 説明には、「捕獲した物体を消化吸収する」とあった。


 つまりこれは、スライムがなにかを食べるということだろう。

 スライムが食事をするとどうなるかという、疑問の答えにもなるはずだ。


 俺はさっそく『吸収』スキルに1ポイントを振って習得。

 ちょうど足元に果物を運んできたスライムたちがいたので、その中の1匹に『吸収』させてみた。


 するとそのスライムは、この島になっている果物特有の、硬い殻をまず体内で溶かす。

 殻はかなり硬いはずなのだが、腐食させるみたいにしてあっとう間に溶かしてしまった。


 すると、中からリンゴが現れる。

 殻をかなり激しく溶かしていたというのに、リンゴのほうは傷ひとつついていない。


 そこで『吸収』はいったん止まる。


 なるほど、『吸収』は段階的に行なうことができるのか。

 もしかしたら、皮だけ溶かしたりもできるのかな?


 俺は興味が出てきたので、ひとまず「皮だけ溶かせ!」と命令しつつ『吸収』を再発動。

 すると皮がなくなり、つるんと剥けたリンゴになった。


 隣で見ていたアンコが、まるで手品でも見たみたいにギョッとなる。


「えええっ!? すごいすごいすごい!

 スライムって、リンゴの皮も剥けるんですね!

 しかもリンゴの形を崩さずに、綺麗に剥けるだなんて……!

 ううっ、アンコはリンゴを剥くのが得意なのに、それよりずっと上手です……!」


 ぐぬぬ……! とスライムにライバル意識を燃やすアンコ。


 たしかに見事なまでの皮剥きだった。

 ナイフとかで剥いたらリンゴの表面はデコボコになるが、それが全くない。


 これは、スライムの新しい使い道を見いだしたかもしれないな。


 思わぬ副産物を得て、実験は続く。

 俺は剥けたリンゴをさらに『吸収』させて、スライムに与えてみた。


 リンゴを溶かした瞬間、スライムの体色がみずみずしい紅色になる。

 まるで、自分自身がリンゴになってしまったかのように。


 真っ赤なスライムの頭上に、名前を示すウインドウが現れる。

 そこには、


『フルーツゼリースライム(りんご味)』


 とあった。


「「ふ……ふるーつぜりー?」」


 俺とアンコは、思わず同時にハモってしまう。


「なんですか、『フルーツゼリー』って?」


「知らん。でも『りんご味』ってあるってことは……」


「ええっ!? それってもしかして……!?」


 アンコは何かを言おうとしていたが、出かけた言葉を飲み込んでいた。

 その言葉が何なのか、俺にはすぐにわかる。


 だって、俺もそれを言い掛けていたから。

 しかし思いとどまった。


 それほどまでに『ありえない』話だったからだ。


 俺とアンコは無言のまま、足元のスライムを見つめる。

 艶やかな赤が、まるで誘うかのようにぷるぷると揺れていた。


 ……ごくりっ!


 と、同時に俺たちの喉が鳴る。

 最初に禁断の言葉を口にしたのは、アンコだった。


「あ、あの……ご主人様……。このスライム、食べてみていいですか?」


「な、なにを言ってるんだお前は! スライムはこれでもモンスターなんだぞ!? モンスターを食べるだなんて……!」


 と、断じきれない自分は、自分でも信じがたい一言を放っていた。


「た、食べるなら、まず俺が……!」


 そうなると、もう止まらなくなる。


「そんな! ご主人様にそんな危険な真似はさせられません! まずはこのアンコが!」


「ってお前、なんでヨダレを垂らしてるんだ!? おあずけをくらった犬みたいに!」


「ご主人様こそ! カツオブシを前にした猫みたいな目をしています!」


「シャーッ! 猫でもなんでも、食うのは俺が先だっ!」


「わんわんっ! アンコが先ですっ!」


 次の瞬間、俺とアンコは同時に『フルーツゼリースライム(りんご味)』に飛びかかっていた。


 わしっ、とつかみ取ってみると非常に柔らかく、簡単にちぎれる。

 まるで食べられるために生まれてきたような、食欲をそそるリアクションだった。


 アンコのある言葉が、走馬灯のように俺の脳裏に蘇る。


「ご主人様、バナナって剥きやすいし、タネもありませんよね。

 そのうえ食べてる最中でも、手も口のまわりも汚れませんよね。

 しかもおいしくて、栄養がある……。

 そう考えるとバナナって、食べられるために生まれてきたんだと思いませんか?

 ……それと同じですよ、アンコがご主人様にお仕えするのは」


 なんだかいい話っぽくまとめようとして、よくわからない話だったことは覚えている。

 しかし今、やっとわかった。


 食べられるために生まれてくるものがこの世にあるとして、第2位は『バナナ』であると。

 そして第1位はまちがいなく、この『フルーツゼリースライム(りんご味)』であると。


 口に含んだ途端、舌に乗せた途端、そう痛感する。

 そして俺たちは当然のように、こう叫んでいた。


「「う……うんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」」

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