第10話

 スライクの弟たちが国王となった四つの小国。

 『ヴァイオ小国』、『ミリオン小国』、『ジーニー小国』、『ミラ小国』。


 彼らはストライク一族の長であるユニバーの命により、いかに自分が指導者の器たるかを争っていた。

 最終的に他の三国を征服し、まとめあげた者こそが、次期ストライク一族の長となれるのだ。


 各国にはそれぞれ100万人ほどの国民と、卒業旅行で誘致したクラスメイトたちがいる。


 国どうしは国交があり、自由に行き来が可能。

 国民は国王の為政を見て、ダメだと思ったらいつでも他の小国に移住ができる。


 現在の各国の人口は、このような感じになっていた。


 ヴァイオ小国 94万人

 ミリオン小国 102万人

 ジーニー小国 102万人

 ミラ小国 102万人


 ヴァイオ小国が6万人口を減らし、その6万人は他の三国へと行ってしまった。

 なぜいきなり、ひとり負けのような事態になったかというと……。


 それは国王であるヴァイオの、ある一言がきっかけになっていた。


「がはははははは! 見よ! 火がなくて困ってやがるぞ!

 魚くらいは獲るだろうと思っていたから、火だけは渡さなかったんだよなぁ!」


 そう、スライクに火だけは渡さなかったと豪語しておきながら、『メテオフォール』で落とした隕石で、スライクに火を渡してしまうという失態からである。


 四つの小国で中継が開始された、『スライクの追放生活』。

 これはたったの1日で、各国の国民的なコンテンツとなり、人々は街頭にある水晶板に釘付けになった。


 人々が夢中になってしまうのも無理もない。

 処刑を中継するという刺激的な内容のうえに、賞金がもらえるゲーム的要素もある。


 この娯楽の少ない世界においては、画期的な発明であったのだ。


 『スライクの追放生活』は、考案した国王たちの予想を遥かに上回る人気を得る。

 それをいちはやく察した国王たちは、その人気を利用して、支持を集めようと考えた。


 先手を打ったのはヴァイオで、件の「火だけは渡さない」発言をしたのだが……。

 逆に、支持率を落とす結果となってしまった。


 そのインパクトはすさまじく、ヴァイオはたったの一言で6万人もの国民を失ってしまう。

 それほどまでに、『スライクの追放生活』は国政に影響を及ぼしていたのだ。


 そうなると、国王たちは自分にとって都合のいい内容だけを流すことを考えたが、それはできなかった。


 映像を映し出す魔導装置の制約上、録画の場合は、真写しんしゃと呼ばれる静止画を繋ぎ合わせたものに限定される。

 リアルタイムで映し出されているものは実際には映像ではなく、魔導装置が見ているものをそっくりそのまま転送しているに過ぎない。


 リアルタイム映像には手を加えることができないので、中継中に不都合な映像が流れる場合がある。

 となると制御不能となる危険性も孕んでいるのだが、各国の王は中継を止めなかった。


 今ここでやめたら、国民がよその小国に逃げてしまうのではないかという不安があったからだ

 そして国王たちは楽観視していた。


 今のところスライクは苦しんでいる様子はないが、彼がいるのは『生前地獄リビング・ヘル』・

 誰も生きて帰ったことのない、伝説の島。


 今はまだ、地獄の一丁目……。

 これから少しずつ、本当の地獄が姿を現す……。


 そのときこそが、『スライクの追放生活』のクライマックス。

 何の役にも立たないスライムにまみれて泣き叫び、自分だけが生き延びるためにアンコを殺し、醜い本性を剥き出しにしたスライクの姿が、国じゅうを席巻するだろう。


 大悪人のレッテルにふさわしい、因果応報なる最期を迎えるスライク。

 彼を断罪した国王には、国民たちの賞賛が集まることだろう。


 そう……!

 弟たちは兄を悪人に仕立て上げ、名誉を得るための踏み台に使おうとしていたのだ……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺は、『生前地獄リビング・ヘル』で2日目の朝を迎えていた。


 強い日差しに叩き起こされると、もう日は高くなりつつある。

 こんな危険な島だというのに、グッスリ眠ってしまった。


 俺はスライムマットをぷよぷよと指で突きながら思う。


 直接寝るのが嫌だったんで、ダメ元で試してみたんだが……。

 これ、身体がほどよく埋まって気持ちいいな。


 屋敷にあった最高級のベッドよりも、ずっと寝心地がいい気がする。


 伸びをしながらあたりを見回すと、ファイアスライムは昨晩落とした位置から動いていなかった。

 スライムは疲労の概念がないので、今の元気にぷるぷるしている。


 ふと気付くと、そのなかの1匹にアンコがとりついていて、びしばしとビンタしていた。


「むにゃむにゃ……ご主人様は、アンコがお守りします……アーンコパーンチ」


 寝相が悪いうえに、完全に寝ぼけてるな。

 ぶたれても健気に耐えているファイアスライムが可哀想だったので、俺はアンコを引きずり起こす。


 すると、


 ガスッ! 「ぐはっ!?」


 アゴにアンコパンチという名の掌底をもらってしまった。

 次の瞬間、目をぱっちりと開けるアンコ。


「あっ、ご主人様! 悪いメイドはやっつけておきました!」


「悪いメイドって、お前のことだろ」


「がーんっ! そんな! アンコは押しも押されもせぬほどの優良メイドですよ!?

 メイド相撲大会では、毎回入賞しているほどに!」


「なるほど、だから『アンコパンチ』といいつつ張り手なのか」


「ええっ!? どうしてアンコの究極神拳のことを!?

 あの技は、まだ誰にも見せたことがないというのに!?」


「そんなことはいいから、朝メシにするぞ」


「はい、ご主人様! 今日はパンとゴハンとアンコ、どれになさいますか!?」


「さりげなく変なのを混ぜるんじゃない。それに、ここにはパンもゴハンもないだろう。

 だから果物でも食べるとするか」


 俺は昨日と同じく、『スライムフォール』を使って木になっている果物を獲った。

 この前は1匹のスライムで2個の果物を獲ったけど、今回は10匹のスライムでたくさんの果物をゲットする。


 果物を『捕獲』したスライムたちが、うにうにと木から下り、俺たちの足元を目指して這ってくる。


「うわぁ、朝からフルーツパーティですね!」


 俺の隣で大喜びしていたアンコが、ふと、こんなことを言う。


「ご主人様、スライムたちってなにも食べなくて平気なんですか?

 おいしい果物を運んでたら、アンコだったらつまみ食いしちゃうかもしれないです!」


 スライムたちが、何かを食べる……?


 スライムってのは睡眠だけじゃなくて食事も必要としないから、何も食べなくても平気だが……。

 もし何かを食べたら、どうなるんだろうか……?


 そう考えた途端、気になってたまらなくなる。

 その答えを得るために、俺はスキルウインドウを開いた。

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