第4話

 クリアスライムを使い、木から果物をゲット。

 あとはトゲだらけの幹から降りるのが問題だったのだが、スライムならばその点は心配無用。


 なぜならばスライムは液体なので、剣では傷つけられない。

 なので鋭利なトゲがあっても、らくらく滑り落ちてこれた。


 クリアスライムは、そのまま俺の足元まで這ってくる。

 スライムの中にあった果物を、手を突っ込んで取り出すと、スライムはシャボン玉のように弾けて消えた。


 果物は野球のボールをひとまわりくらい大きくしたサイズで、硬い殻に覆われている。

 しかし少し力を入れるだけで簡単にパカッとふたつに割れ、中から真っ赤なリンゴが出てきた。


 まるで手品を見ているかのように、目をまん丸にするアンコ。


「へぇぇ……こんな風になってるリンゴ、初めて見ました」


「俺も初めてだよ」


「もっとよく見てみたいです。ひとつ、アンコにくださいませんか?」


「ああ、いいよ」


 リンゴはふたつあったので、ひとつをアンコに手渡す。


「これって、食べても平気なんでしょうか?」


「わからん、とにかく俺が先に食べてみるから……あっ!?」


 という間に、アンコはリンゴに齧り付いていた。


 彼女の考えはすぐにわかった。

 俺が食べる前に、毒味役をしようというのだ。


 俺が止める間もなく、彼女はシャリシャリごくんと、謎のリンゴを飲み下してしまった。

 そして急にうつむき、喉と腹を押えて苦しそうに呻きだす。


「おっ……!? おおおっ……! おおおうっ!」


 俺は、血の気が引く音を聞いた気がした。


「ど、どうした!? しっかりしろ、アンコっ! 吐き出せっ! いますぐ吐き出せっ!」


 背中をさすりながら覗き込むと、その顔は恍惚に満ちている。

 次の瞬間、アンコは天を仰いで絶叫していた。


「おっ……おいしいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?

 こ、このリンゴ、すっごくおいしいですっ!

 いままで食べたことがないくらい、メチャクチャにっ! おいしいおいしいおいしいっ!

 おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 俺も謎のリンゴを食べてみたのだが、アンコの大袈裟なリアクションが理解できるほどに、とんでもないものだった。


 俺は、小等部に上がる前までは毎日が誕生日のような暮らしを送っていて、世界のいろんなごちそうを食べてきた。

 ユニバー曰く、征服者は美食でなくてはならないという教育方針からだ。


 その時に食べたどんなものよりも、このリンゴはおいしかった。

 どのくらいおいしいかというと、食べたらいきなりレベルアップしてしまうほどに。


 なにかを食べてレベルアップしたのは、生まれて初めてのことだ。

 なんにしても俺とアンコは、最高の美味で腹を満たすことができた。


 いま俺たちがいる浜辺は島の外周で、内側の森にはバリケードみたいにトゲの果樹が並んでいる。

 相変わらず森に立ち入るのは無理そうだが、果物に関してだけは食べ放題になったようだ。


 『スライムフォール』がまさか、こんな形で役に立つだなんて……。

 しかし感激してばかりもいられなかった。


 次は水を確保しないといけない。

 果物を食べれば水分補給もできそうだが、それでもやっぱり水は必要だろう。


 水なら海にいっぱいあるが、アレは塩水だしなぁ……。

 なんとか蒸溜する方法はないものだろうか……。


 そこまで考えてふと、ある考えが思いつく。

 俺は海に向かって手をかざした。


「フォール、クリアスライム!」


 10メートルほどの高さかに現れた無色透明のスライムが、巨大な水滴のようにばしゃんと海に落ちる。

 俺は続けざまに、『捕獲』のスキルを発動した。


 もし海水も取り込めるのなら、もしかしたら……。

 期待を込めてスライムを『コントロール』し、海の中から呼び戻す。


 すると、ぷよぷよとした液体の外皮で、海をコーティングしたようなスライムが現れた。

 頭上に『シースライム』という半透明のウインドウが浮かんでいる。


 新しいスライムを作ると、こうやって名前が判明し、スキルリストの『履歴』に登録される。

 中には登録されないスライムもいるが、登録されたスライムはその名前で自由に降らせることができるようになるんだ。


 そしてここからが本番だ。

 俺はスキルリストを開くと、新しく増えたスキルの中から『分離』のスキルをゲットする。


 スキルの説明には、『捕獲した物体を複数に分離する』とあるが、これを海水にかけたらどうなるのか……。

 俺は祈るような気持ちで、『分離』スキルを発動する。


 シースライムの頭上には、またしてもウインドウが浮かび上がる。


 『「海水」を「水」と「塩」に分離しました』


 「よしっ!」と俺は思わずガッツポーズをとる。

 いつの間にかアンコは俺の手を取って、犬みたいにペロペロ舐めていた。


「なにやってんだお前」


「いや、リンゴのお汁が残っているかと思いまして……」


「あとでたっぷり食べさせてやるから、いまは待ってろ」


「さっきから、なにをされていたんですか?」


「スライムを使って、真水を作れないかと思って試してたんだよ。うまくできたみたいだ」


 シースライムの中には、輝度の違う透明の液体と、塩の固まりが浮かんでいた。

 さっそく取り出してみようと手を突っ込んでみたら、パチンと弾けてしまう。


 この水風船のような特性は、スライムならでは。

 おかげで塩の固まりこそ浜辺に残ったものの、水は地面に染み込んで消えてしまった。


 そうか……液体だと取り出すのが難しいんだな。

 となると、入れ物の中とかで取り出すのがいいのかもしれない。


 しかしそれだと、入れ物の中でまた水と塩が混ざって、海水に戻っちゃいそうだし……。


 俺は頭を捻ったあげく、スキルリストに助けを求めた。

 すると、良さげなスキルが目に入る。


 『放出』……捕獲した物体を体外に放出するスキルか。

 これを試してみよう。


 俺は残ったスキルポイントを使い、『放出』をゲット。

 今度は直接シースライムを呼び出した。


「フォール、シースライム!」


 浜辺にぼとんと落ちてきたシースライムに、『分離』スキルを発動。

 水と塩に分かれたシースライムに向かって、さらに命令する。


「よし、シースライム、水を上に放出するんだ」


 次の瞬間、まるで公園にある噴水のように、


 ……ぴゅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!


 勢いよく、吹き出したんだ……!

 今の俺たちにとっては、『恵みの雨』と呼べるものが……!


「わあーっ! すごいすごい! すごいです! ご主人様!」


 アンコは大喜びで雨の中をはしゃいでいる。

 吹き出す水に口を付けて飲んでみたら、これまた美味しい水だった。


「ぷはあっ! うめーっ! 最高だ、この水!」


「はい! とってもおいしいです!」


 俺とアンコはふたりして、水をゴクゴク飲んだ。


 俺は『ウォータースライム』『ソルトスライム』をゲット。

 さらに1レベルアップを果たした。

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