第10話 同級生の姉が誘惑してきた!?
「月島くんの好きな食べ物ってなに?」
早乙女さんの隣を歩いてたら、いきなり質問を投げかけられた。
「うーん、急に思いつかないや……でも、ツナとチーズは苦手かな」
「そうなんだ」
「……」
ねねのおかげで、好きな食べ物ではなく、苦手な食べ物ができちゃった。
「早乙女さんは?」
最初から沈黙だったのは大丈夫だけど、会話が途中から途切れるのは少し心地悪い。
「私は肉」
「肉?」
「うーん。牛ちゃんとか豚ちゃんとか」
ちゃん……?
「普通は牛肉とか豚肉っていうんじゃ?」
「それじゃ可愛くないじゃない?」
「えっ、一応食べるんだよね……?」
「ほら、呼び方が可愛いと食べるときも美味しく感じるでしょう?」
可愛い呼び方しといて、結局食べるんだ……
俺の頭の中に、「もー」って鳴きながら前の足で自分の頭を掻いて、てへへっと笑っている神戸牛を早乙女さんがフォークとナイフをもって食べようとしている光景が浮かぶ。
やめとこう。シュールすぎる。
「じゃ、焼き肉とかは好き?」
「……」
あれ、早乙女さん黙っちゃった。地雷踏んだのかな。
「焼き肉は……」
「焼き肉は?」
「焼き肉は好き! あとしゃぶしゃぶも!」
早乙女さんは急に眼をきらきらさせて俺を見つめてきた。
地雷じゃなくて、早乙女さんの変なスイッチを押しちゃったのかも。
思わず後ずさりそうになったが。
「ほんと、肉が好きなんだね」
でも、そうやって目を輝かせてる早乙女さんは初めて見たから、いやな気はしなかった。
前までは隣の席なのに、なんか新鮮。
「うん。でも焼き肉は牛ちゃんで、しゃぶしゃぶは豚ちゃんじゃないといや」
「それ、なんか分かるかも」
「ほんと? 月島くんとは気が合いそうね~」
そういって早乙女さんはクスクスと笑った。
千奈美も前まではこんな風に笑ってたっけ。
「あっ、でもすき焼きは牛ちゃんかな」
「それもなんか分かる。同じ鍋みたいなもんなのにね」
「確かに……」
早乙女さんは考え込んだ。
「おかしいよね~」
考え込んだと思ったら、早乙女さんはにこっと笑い出した。
「うん、おかしい」
俺も早乙女さんの笑顔につられて思わず顔が綻んだ。
気づいたら、さっきまで早乙女さんと二人きりで歩いている緊張感がすっかりなくなっていた。
「あの、うち今両親いないんだけど……」
家の前に着いて、早乙女さんが急に切り出した。
えっ? これってつまり……あれだよね? 家で早乙女さんと2人きりって事だよね?
いやいや、今日までろくに話したことがないんだぞ?
いくらなんでも早すぎなんじゃ……?
って違う! 俺には好きな人がいるんだ。
しかもこのタイミングで早乙女さんとそんな関係になってしまったら、ねねにバレて星間問題になりかねない……
「月島くん? ねえ、月島くん?」
「はい!?」
早乙女さんの声で、ふと我に返る。
「どうしたの? 急にボーっとして」
「あの、早乙女さん!」
「はい!」
「いくらなんでもこれはよくないと思うよ!」
「そうよね……」
「早すぎるというか、勉強を口実に使うのは早乙女さんらしくないよ!」
らしくないって、俺早乙女さんのことほとんど知らないけどね……
いくら早乙女さんの目を覚ますためとはいえ、この言い方はないよねと内心で思わず苦笑いする。
「あの……なんのこと?」
「えっ?」
「両親はいないけど、お姉ちゃんはいるから」
顔から熱気が立ち上る。
穴があったら入りたい。
「うちのお姉ちゃんは、その、少し変な人だから、てっきり月島くんもこのことを知ってて話してるものかと思った」
「ご、ごめんなさい」
「も、もしかして……月島くんは私と……その……変な想像とかしてたの?」
早乙女さんは顔を上げて、じろじろと俺の目を見つめてきた。
心なしか、顔が少し赤いような……
「してない。してないから!」
「そうか。少し残念……」
「えっ? 残念って?」
「えっと、なんもないから!」
早乙女さんがこんな大声出すのも新鮮だ。
「お姉ちゃんはいるけど、気にしないでくれたらうれしい」
一瞬テンパってたのがウソみたいに、早乙女さんはスカートの裾を叩いて、いつもの顔に戻った。
女の子って切り替え早いな。
「うん、大丈夫。俺は気にしないから」
「よかった。じゃ、家に入ろうか?」
「家の前でなに話してんの? 涼子」
「お姉ちゃん!?」
ドアを開けて、家から出てきたのは巨乳の……こほんっ、背中まで伸びている黒髪を手でぐるぐる回している綺麗な女の人だった。
これってFはあるよね……
千奈美、俺は別に大きいのが好きなわけじゃないから……
心の中で千奈美に弁解する自分。
「えーと」
「月島です」
「月島くん? 私は涼子の姉、絢美です。いつも妹がお世話になってます~」
あれ? すごく丁寧。全然早乙女さんのいう変な人って感じがしないんだけど。
「で、涼子。月島くんは涼子のこれ?」
そういいながら、親指を立てて、にやりと笑う絢美さん。
まあ、姉妹なんだから、こういうやり取りもあるでしょう……
「ちっ、ちがくて……月島くんはその人妻……にゃんこ星……勉強……うわー、私何言ってるのよ!」
それはこっちのセリフ。
下手したら誤解されるかもしれない。
ほら、絢美さんが変な目で俺を観察し始めたじゃん。
どうしてくれんの?
そういえば、こんなにテンパる早乙女さんもなんか新鮮。
「君、うちの大事な妹になにをした!?」
「いや、どう考えてもお姉さんの質問が原因じゃないですか!!」
いわれのない疑いをかけられて、思わず大声を出してしまった……
「ははは、冗談よ。どうぞ、月島くん。上がって上がって?」
「はあ」
俺はため息をつきながら、早乙女さんの家にお邪魔した。
やはり、早乙女さんのお姉さんはちょっと変かも……
早乙女さんはといえば、未だに家の前で「違う…違う…」とブツブツつぶやいてる。
「これはいったいどういうことなの!?」
案内されたソファーに腰をかけた俺の下半身をじろじろと観察したあと、絢美さんは叫びだした。
「あの……どういうことですか?」
「なんでこんなに色っぽいお姉ちゃんを前にして勃〇してないのよ!!」
訂正しよう。早乙女さんのお姉さんは俺の見てきた人の中で一番変だ……
いろいろと突っ込みたいが、とりあえずこれだけは言わせてくれ。
自分で色っぽいって言っちゃうんだ。へー。
いや、違くないけど、違くないけども、自分で言っちゃうんだ……
「分かった! 涼子と下校中に済ましてきたのね!」
「違う!!」
ため口でしゃべってしまうほど、俺は一刻もはやくこのとんでもない疑惑を否定したかった。
「照れなくていいから、でないと説明がつかないでしょう? 私を前にして無反応だなんて」
「はあ……お姉さんって……」
「あやみだよ♡」
「はい?」
「あやみって呼んで?」
「……絢美さんって……」
「あやみ! さんはいらない!」
このやり取りどこかでやった気がするけど、気のせいかな。
「あ…絢美」
今にも消え入りそうな声で俺は絢美さんを呼んでみた。
「聞こえなーい!」
「絢美はさ、なんでそんなにエロいことばっかり考えてるんですか!」
俺は半分やけくそになって叫んだ。
あと半分はこうでもしないと女の子にこんなこと聞けないからだ。
「うん? 月島くんってえろい女の子嫌い?」
そういって、絢美さんはパーカーのチャックを下ろしていく。
もともと存在感の半端ない胸がより自分の存在を主張する。
「なんで全く反応しないんだよ! 月島くんってまさかイ〇ポなの!?」
「違う!!」
なんで一々俺が否定したくなるようなことを言ってくるのかな、この人。
「こうなったら……」
「や、やめてください!! いやん!」
絢美さんは勢いよくソファーから立ち上がり、俺のズボンに手をかけて、力ずくで下ろそうとしてきた。
「お姉ちゃん! なにやってんのよ!?」
助かった……
でも、早乙女さん、遅いよ……
家の前で10分もぶつぶつ呟くなよ……
俺の心の中は、俺を絢美さんと二人きりにしていた早乙女さんへの文句でいっぱいだった。
にゃんこ星のお姫様が宅配便で届きました〜初恋の幼なじみに振られた俺のところに、宅配便で猫耳美少女が届きました!幼なじみのあの子をまだ好きなのは浮気だそうです エリザベス @asiria
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