第3話 にゃんこはお嫁さん!?

「「結婚おめでとう! まこと」」


「この子がねねちゃん? あら、可愛いわね!」


「初めまして、お母さま」


 ねねは軽く頭を下げ、お母さんに一礼した。猫耳は少し垂れて、水色の髪の上に、白いわたあめが二つ付いてるような、そんな感じ。


 よく考えたら、これって生まれてきたばっかの赤ちゃんが言うべきセリフだけど、実際赤ちゃんがこんな言葉を発したら、母親は卒倒するだろう。


「あの、お母さん……」


「なぁに?」


 なんでノリノリなの?


「お祝いって?」


「まことの結婚祝いだよ! 改めて結婚おめでとう。まさか息子がこんなに早く結婚するなんて、お母さん嬉しくてなきそう」


「まこと、これからお前も結婚した身、しっかりするんだぞ!」


 なにこれ? 俺の親洗脳でもされてるのか?


「ちょっと言いにくいんだけど、せっかく祝ってくれてるけど、俺、結婚の話聞いてないんだ……痛っ!」


 話してる途中、ねねは爪を立ててひっかいてきた。


「だって、サプライズにしたかったんだもん」


 お母さん、お願いだから、年を考えて? 「もん」とかかわいくないから。


 てか、こんなサプライズいらない。迷惑以外の何物でもない。


「はい、これ見て~」


 お母さんに手紙のようなものを渡された。いかにも公文書みたいな感じのやつ。


 とりあえず読んでみるか……


『ごほんっ、わしはにゃんこ星の王―オウノアキラである。まあ、日本語で書くと王野あきらだね。

 知ってると思うけど、この度、我がにゃんこ星と日本が国交樹立10周年を迎えた。それでわしは考えたのだ。これにかっこつけて、我が娘―ヒメノネネを貴殿の息子―月島誠人に嫁がせられるんじゃないかって。

 なんせ娘の恋を叶えてやりたいのは親心だからな。

 ごほんっ、やっぱ今のなし。

 あくまで国交樹立10周年を記念して、日本との関係をさらに友好なものにしたいから娘を嫁がせるのだ!別に、娘が貴殿の息子に惚れていて結婚したいとわしにねだってきたからじゃないんだからな!勘違いするでないぞ!

 まあ、娘の惚れた男なら安心して送り出せる。そうだね、婚姻届はわしが出しておいたぞ。感謝するといい。

 あばよ』


 ねねと苗字違うじゃないかよ。


 うん……きっとにゃんこ星の王様は日本語が得意じゃないからこういう文章になったんだよね。決してバカだからじゃないよね……


 ねねが俺に惚れてるって書いてるけど、会ったこともないのに……?


 日本政府はこれでいいのか。国民自身の同意なしに結婚を認めていいんですか。


 俺は思わずため息を吐いた。


「総理大臣からも手紙来てるわよ」


 ごめん、疑ってすまなかった。総理大臣はちゃんと国民のことを考えてくれてるんだね。


 軽く感動した。総理大臣ならきっと助けてくれるはずだ。


『月島誠人くん、結婚おめでとう。

 これからはにゃんこ星の姫様とお幸せに。


 PS:ここだけの話。絶対に姫様の機嫌を損ねるなよ!

 特に浮気は絶対にするな! お願いだから!

 君が浮気なんかしたら星間問題だからな!

 日本の未来、いや、地球の未来は君にかかっている!

 では、ご武運を』


 PSは本文よりも長い……


 地球のために、俺を売ったということなのだろう。大した大義名分だ。ははは。


 心の中で苦笑いして、俺は手紙をお母さんに返した。


「旦那さん、これで納得した?」


「その呼び方やめろ! そして、納得してない」


「じゃ、あなた?」


「違う! そういうことじゃない」


「じゃ、なんなのよ!」


 ねねはぷぅと頬を膨らませて、もふもふな猫耳がピンと立っている。


 よく見てみたら、耳の中はピンク色なんだね。ってこんなこと考えてる場合じゃない!


「あっ! そういえば、ねねちゃんが好きかなと思ってこれを買ってきたよ」


 そういってお母さんは買い物袋から何かを取り出した。


 ……猫じゃらしだった。


「……お母さん、にゃんこ星人は猫じゃないん……」


「きゃっ! 私の大好きなやつだ!」


 俺がお母さんに呆れながら話し終わる前に、ねねは猫じゃらしに食いついた。


 ねね、お前のアイデンティティはそれでいいのか……


「お母さん、ちょっと貸して? それ」


「えっ? いいよ?」


「ねね、ほれほれ」


「いやん、きゃっ~」


 猫じゃらしでねねの注意を惹きながら、俺はゆっくりと玄関まで移動する。もちろんねねは猫じゃらしで付いてきている。


「ほら!」


「わーい!」


 ドアを開けて、猫じゃらしを勢いよく外へ投げ飛ばす。


 ねねは、ご主人様に木の棒を遠くへ投げられた犬みないにジャンプしてそれをキャッチする。


 ワンピースを着てるせいで、白いパンツが目に焼き付いた。


 そして、そっとドアを閉め、鍵をかけた。


「お母さん、今日の晩飯ってなに?」


 ドンドンドンドン!


「ちょっと! 入れてよ! 卑怯だよ!」


「お母さん、カレーが食べたい」


 ドンドンドンドンドン!


「旦那さん! なんで私を締め出すの? そういうプレイが好きなの? Sなの!?」


 お母……やっぱいいや。


 ドアを開けたら、ねねは俺めがけて突進してきた。ガーンという肋骨が折れそうな音とともに、ねねは俺に抱きついた。口に猫じゃらしを咥えたまま。


「旦那さんのばか! ばか!」


 不本意だが、いわれのない性癖をドアの前で叫ばれたら、どのみち俺の人生は終わりだ。


「まこと、なんの騒ぎ?」


「なんでもない」


 抱きついてる手が歩いてる半ばに俺のお尻当たりまで下がって、下半身が床にくっついてる状態のねねを引きずって、俺はリビングに入った。


 自分で歩けと言いたいところだが、多分ねねに聞く耳はもたないだろうと思ってやめた。


「あらま、もうラブラブなのね~」


「さすが俺の息子だ! 女の子に優しいね」


 俺の両親の脳みそってもしかしたらバグってるのかも……




 晩御飯は豪華ってレベルじゃなかった。文字通りに。ある意味すごいが、それは決して豪華って意味じゃないと俺は断言できる。


 ツナの天ぷらにツナのから揚げ、そして、カマンベールチーズのフォンデュにクリームチーズの串揚げ。


 それを見て、ねねはすっかり上機嫌になって食卓上にあるものを全部平らげてしまった。


 もしかしたら、ねねをなんとかしないと、毎日がこんな地獄になるのかもしれないね。


「まこと、シングルだけど、くっついてたらなんとかなるわよね?」


「なんのこと?」


「ねねちゃんって小柄だし、今日注文したダブルベッドは明日届くから、今日は我慢しなさい」


「だからなんのこと?」


「うん? 二人は夫婦だから、夜は同じベッドでねるんじゃない? 今日は二人でくっついて寝て我慢してねって言ってるんだけど?」


「あの、俺は男だけど」


「何言ってるの? 私の息子なんだからもちろん知ってるよ?」


「息子が女と一緒のベッドで寝ても心配じゃないの?」


「結婚してるから、普通じゃない?」


「もしそれで俺がねねを襲ったら?」


「2人の初夜なんだし、それくらいしないとね!」


「それでねねが妊娠したら?」


「めでたいことじゃん! お母さんはやくお孫さんの顔が見たかったんだよね~」


「父さんもお母さんに同じ」


「旦那さん、今日からよ、夜もよろしくね……?」


 なぜ顔を赤らめる?


「はあ」


 ほんとにいいのかよ。俺はこれでも年頃の男だよ?


 ねねの心配はしてなくても、俺の心配はしろ?


 息子の純潔はどうなってもいいのか?


「はあ」


 俺は二回もため息をついた。

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