第2話 にゃんこは意外と庶民的
「挨拶遅れたわね! 私はにゃんこ星の姫、姫野ねねよ!」
「なんで名前が普通に日本人だよ! てかまんまの意味じゃん!」
気づいたら、口が勝手に開いた。ツッコミどころはほかにも色々あるけどね。
「ごもっともな質問だね」
なぜ勝ち誇った顔をする?
「私の名前を日本語に訳したらこうなるんだよ」
大丈夫? 訳し方見違ってない? 都合がよすぎというかご都合主義ここに極まれりって感じだな。こういうのって漫画やアニメの中にしかないと思ってたのに。
「ちなみに、にゃんこ星での名前は?」
「ヒメノネネ」
「変わってないじゃないか!」
頭が少し痛くなった。多分目の前のこいつのせいで、ツッコミ力が上がったような気がする。
「全然違うんだよ? 日本語はひめのねねで、にゃんこ語はヒメノネネだよ」
「ごめん、全然わかんない……」
これがカルチャーショックというやつか。
テレビにも映ってたから、目の前のこの子はおそらくほんとのにゃんこ星の姫様なのだろうが、いまいち緊張感が持てない。
「ほかにも謝ることがあるでしょう!」
「えっ? なに?」
どうしたの? 急に。
「重いってなんだよ!? 重いって!」
ああ、ダンボールを運んでた時の俺のつぶやきが聞こえてたのか。どうりでびくっとしたわけだ。
確かに女の子に対して重いって言ったのは失礼だよね……あれ、ちょっと待ってよ、ダンボールに対して言ったのだから、怒られる筋合いはないよね。
「えっと、姫野さん?」
「ねねでいいよ!」
「じゃ、ねねさん」
「ねね!」
めんどくさい……こいつと話してたら、失恋の気分じゃなくなった。
「……ねね、重いって言ったのは悪いと思ってるけど、そもそもなぜダンボールで来たんだ?」
「宅配便のほうが安いから」
「えっ?」
一瞬耳を疑ってしまった。
「宇宙船のチケットって高いじゃん? でも宅配便なら一割の値段で済むんだよ」
「値段?」
「そうそう! 正確に言うと13%だけど、四捨五入したら一割だし、いいんだよね」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「それに、最近チーズとかツナとかも値上がりしてるから、節約しないとね」
チーズとツナが好きなのね。
って、そうじゃなくて、庶民なの!?
一旦整理しよう。えっと、ねねは確かににゃんこ星の姫様だよね。なぜ近所のおばさんみたいなことを言うんだ?
どう考えてもそれって庶民の考え方じゃん。
「ねねって姫様だよね」
「そうだけど?」
「なんか庶民みたい……」
「あっ! いま庶民って言った! ひどい」
「だって……」
「それを言うなら、家庭的だよ! 私は」
「はあ……」
「ため息つくな!」
「仕方ないじゃん。てかにゃんこ星の姫様が俺になんか用? 宛て名が俺だから、俺に用事があるだろう」
「あれ、聞いてないの?」
「ごめん、聞いてない。まさか節約話を俺に聞かせるためだけに来たなんて言わないよね」
マジでそうだったら、この子を組み敷いて人参でも食わせてやるわ。
そんなどうでもいいことのために、俺が失恋中に訪ねてきたとしたら、それくらいやっても許されると思うけどどうだろう。
「節約大事だよ? だって、私はもうお嫁さん、いや奥さんになったから、家計とかちゃんとしようかなと思って」
そう言えば、さっきのニュースもにゃんこ星の姫様が結婚とかなんとか言ってたような。
なるほど、だから節約してんのか。
って、大問題じゃないか!
「な、なぜ人妻が俺んちに来てるんだよ!」
ねねの旦那にこんなところを見られたら言い訳のしようがないじゃないか!きっとどこかの王子様だろうね。国際問題にもなりかねない。
悪いことしてるわけじゃないけど、もし千奈美と結婚して、彼女が薄いワンピースでほかの男の家に行ったら、たとえ何もしてなくても、間違いなく俺だって怒るだろう。結局、男って独占欲の代名詞なのだから。
「ちょっ! 言い方」
「間違ってないだろう」
「そうだけど、他人事みたいにいうのね」
「だって他人事じゃん」
「旦那はあなたなのに?」
「そう、旦那が俺だとしても……ちょっと待って、いまなんて?」
「私の旦那さんはあなただって言ったけど?」
あっ! やっと分かった! これってドッキリ番組の撮影かなにかだろう。
「カメラはどこだ?」
俺は視線をきょろきょろさせて、隠しカメラの場所を探し始めた。
「えっ!? カメラ? 記者とか来てるの? 結婚相手は明かしていないはずなのに……」
またまた……姫様にしては演技がうまいね。
「これってドッキリの撮影だろう?」
「違うよ?」
「だよね。でも、俺は今失恋中だから引き取って……今、ちがうって?」
「今なんて? 私というものがいながら……この浮気者!」
「知らんわ!」
思わず声を荒げてしまった。話が噛み合わない上に、浮気者呼ばわりまでされてしまったから。
「なんで開き直るのよ! 結婚初日に浮気したくせに」
なんか、こいつとは会話ができる気がしない。
とりあえず話をもとに戻そう。こいつのペースについていったら話が進まないだろう。
ねねの反応からして、ドッキリではなさそう。まさか本気で言ってるのか……
確かによく考えてみれば、にゃんこ星の姫様がわざわざドッキリ番組に出演するわけないよね。
「俺は16歳だよ?」
「私も16歳よ? だから?」
ねねは首をこれでもかと傾げて、長い水色の髪が傾けたほうに垂れていて、キラキラしている。
「まだ未成年だよ? だから結婚できないから」
「大丈夫! にゃんこ星ではもう立派な成人だよ」
「……ここは日本だよ」
「まことって神経質なんだね」
俺が間違ってるの? しかもいきなり呼び捨て?
「にゃんこ星は何歳から成人?」
「3歳!」
「猫じゃん!」
「えへへ~ 冗談だよ~ 騙されてやんの~」
冗談だったのか。よかった。
って、よくない! ムカつくやつだな。どうもねねと話してたら調子が狂うな。
「にゃんこ星も日本と同じで男の子は18歳、女の子は16歳になってからじゃないと結婚できないよ?」
「なんだ! じゃ、結婚の話はやっぱり嘘だったんだね。びっくりした」
俺はほっと胸をなでおろした。この年で結婚とかしてたら早婚ってレベルじゃないからな。
「うん? 嘘じゃないよ。そんなの皇族とは関係ないし」
そう言って、ねねは手をパーにして、顔の前で横に振っていた。いかにも俺をバカにしてる感じだ。
「俺は皇族じゃない」
「私と結婚したから、まことも今はにゃんこ星の皇族だよ」
なにそれ? 聞いてない。日本とはずいぶん違うんだね。
いや、そもそも結婚の話から聞いてなかったし。
「「ただいま!」」
よかった! いいタイミングに親が帰ってきた。この状況は俺の手に余るから、お母さんかお父さんあたりに頼んで、このわけわかんないことを言ってるお姫様に帰って頂こう。
「おかあ……」
「「まこと、結婚おめでとう!!」」
ぱーっとクラッカーが鳴らされ、リボンやら紐やらが俺とねねの頭上に降り注いできた。
ねえ、せめて、最後まで言わせて?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます