学園の三大姫がラブコメをはじめるようです

華川とうふ

第1話 「好きです。付き合って下さい」


「で、用事ってなにかな? 今朝、下駄箱に手紙が入っていてびっくりしたよ。手紙なんてもらうの初めてだから」


 そういって西沢海斗は照れたように魅力的な微笑みを浮かべた。

 放課後体育館裏。入学式では美しかった桜の花の姿は消え、美しい若葉が見え始めていた。

 入学してちょうど一ヶ月。ゴールデンウィークを終えた私は、クラスメイトである西沢海斗を体育館裏に呼びだした。


 クラスメイトといっても、西沢海斗はただのクラスメイトではない。


 成績優秀、スポーツ万能、みんなに優しくて、イケメンのクラスメイト。(調査によると、アイドル事務所に彼のプロフィールを送った我が学園の生徒は十人以上いる。)

 新入生代表の挨拶は彼だし、ということは当然入学試験も彼がトップ。どうやら、入学試験は満点だったらしい。


 学年中、いや、学校中が彼に注目した。


 そんな彼を体育館に呼び出して、することなんて一つに決まっている。

 告白だ。


 私は彼に告白をする。

 ほら、言うの。

 言うなら、今がラストチャンス!

 今、言わないと絶対に後悔する。


 だけれど、上手く言葉が出てこない。


 入学してから一ヶ月の調査で、私が彼に告白できる最後のチャンスが今日、つまり今この瞬間なのだ。


 この学校には彼のことを好きな女子は複数いる。というか、学校中の女子で付き合っている相手が居ない限り彼のことがみんな好きだろう。だからこそ、彼が手紙をもらったのはなのだ。

 みんなお互いに牽制して彼に近づくことができない。


 普通の生徒なら。


 彼に近づいても他の女子からやっかまれないのはこの学園でも三人ぐらいだろう。


 一人目は、女で初の生徒会長となった三年生の有馬ありま夕陽ゆうひ。文武両道、人当たりも良く、西沢が女に生まれていたらこんな感じだろうと思わせるような大和撫子だ。なんでも、茶道やら華道の心得もあるらしい。休日は着物姿で出かけているところを目撃されている。


 二人目は、学園のアイドル、二年生の小鳩こばと亜望つぐみ。華奢な体つきに、校則を熟知してギリギリのお洒落を責める。とにかくカワイイ。女子である私からみてもそのやわらかそうな絹のような髪に真っ白でやわらかそうな肌には息をのむ。


 そして、三人目はこの私。鈴原アオイだ。入試は惜しくも奴とは二点差。西沢が体調不良だったときは、私が新入生代表の挨拶をしてくれと言う話だった。黒髪ロングのストレートヘアーが自慢。持ち物は自由がきくものは全て青系の色で統一。自分でいうのもなんだけれど、高校に入学する前は学園の女神様とか青の妖精とかそんな風に裏で呼ばれていた。

 自分でいうのもなんだけれど、悪くはないというか、美少女といっても差し支えない。


 だって、私は努力してるもん。


 学年一位をとるためなら必死に早朝に起きて勉強もするし(夜更かしは肌に悪いからそこは早く寝る)、美容と体育でいいところをみせるために毎日ジョギングや筋トレも欠かさない。そして、念入りな保湿と保湿と保湿。

 透明感のある肌もつやつやロングの黒髪も、澄んだ瞳も。全部保湿があってこと。たっぷりと水分を摂取して、外からは逃がさないようにクリームをたっぷり塗る。毎日のたゆまぬ努力で、私はである自分を、完璧美少女にまで磨き上げたのだ。



 高校でも、青の妖精とか女神様とかそんな異名をもって、学年中、いや学校中から憧れの視線を一身に受けるつもりだった。

 成績優秀、スポーツ万能、そしてみんなに優しい完璧美少女。それが私、鈴原アオイであるはずだった。


 ……なのに、この西沢海斗。

 こいつのせいで私の計画は狂ってしまった。


 私よりも、成績は優秀で、体力テストも先生を驚かせ、すでにうちのクラスはものすごくまとまりがよいと噂されている。すべて西沢海斗の方が優れた人間だと学校中が認識していた。というか、私は彼、西沢海斗のせいで、普通の学生だ。


 私はみんなから注目される、完璧人間の座を取り戻したかった。

 だから、私は今日、西沢海斗をここに呼び出した。



「好きです。付き合って下さい!」


 やっと、言えた。この一言を言うために私は今日までの一か月間、血のにじむような努力をしてきたのだった。

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