鮮やかなる監獄地区

私はいつものように朝のルーティーンをこなす。

私は完璧でなければいけない。私は絶対。

私とは何か。私がここの手本でなければいけない。

私は見られている。私が正義。

アァァァァァッッ!!

本当は!私!こんな事したくないんだよぉぉ!

あのクソジジイ、マジで許さん。

ストレスを抱えながらも、私は廊下を進んでいく。

廊下の突き当りにある扉の向こうには、あの4人がいる。

まぁ脱獄とかしそうな雰囲気は無いけど、とりあえず見ておく。ていうか規則。めんどい。マニュアル破りたい。

私は扉を開けた。あれ。おかしいなー。

「「「「あ」」」」

「…」

見れば1人が石で鍵穴壊そうとしてた。

どこから持ってきたその石。

「これは…その…」

明らかに動揺してる石持ちの女の子。

「イツさんにやれって言われました」

「は?」

仲間割れですか?

「イツさんは誰ですか?」

「コイツ」

そういって男の子が指したのは小さい女の子。多分違うよね、うん。そんな事言わないよこの子。

「私はフェニカです」

ほらね。てかチームワーク皆無じゃん。

「…」

「私が…」

カヅラちゃんが手を挙げた。いやまさかそんなはずは。

「カヅラちゃんが…そんな事するわけないじゃん」

「…」

なぜか反論しないカヅラちゃん。可愛い。

「アリサ、お前を一生恨むからな」

「う…」

どうやら石を持っていた子はアリサと言うそうです。

「アリサちゃん、本当にイツさんに言われた?」

「…」

「…」

なぜ黙る。そういう事ね。おーけー。

「アリサちゃん、君には」

「男です」

…え?

「…」

「…」

めっちゃ怖い目してる。檻越しでも殺されそう。

「アリサ、抑えろ…」

どうやらよくあるそうです。どう見ても女の子じゃん。

すると私の心を読んだかのように動き出すアリサちゃ……あー、アリサくん。怖い。

「殺す」

ひぃ。

するとアリサくんは私に思いっきり石を投げてきた。

私は反射神経が悪いから思いっきり当たる。

頭に。

意識が…




「ざまぁねーです」

通路を挟んで向こう側にいるカヅラさんめっちゃ驚いてました。まぁまさか頭にクリーンヒットするとは。

「アリサ…とりあえず髪切ったら?」

「いやです」

断固拒否です。


女の人は前に倒れてくれたので、間からギリギリ鍵奪えました。やったぜ。

エルとアールも取り返しました。

そうして僕たちは牢獄を出…れませんでした。

「誰だ?」

扉の向こうに立っていたのは銃を持った男の人。怖い。

「…はぁ。しくじったか…」

なんか怒ってらっしゃります。僕は、めっちゃ動揺してました。だって怖いもん。デコピンで人殺しそうな見た目してるもんこの人。それに対してイツさんは女の人から奪っていた銃を構えていました。流石イツさんです。

「お前こそ誰だよ。ここから出せ」

「俺の事を知らない…?」

知らないです。

「ウミハ…中々いい人材だと思ったがな」

そう言って男の人は女の人…ウミハさんの襟を掴んで持ち上げました。何する気だぁ。

「コイツはもう殺す」

「おい待て…」

そして男の人はウミハさんの首元を押しました。よく見るとボタンが飛び出ています。

「1時間後…ウミハの首に埋め込まれた爆弾が爆発する」




私が目を覚ました時には既に片付いていたようだった。

カガリさんが倒れている。多分この人たちがやったのだろう。私はきっと、首の爆弾を起動させられている。

「あ、起きましたよ」

「おー」

「…私、どれだけ気絶していました?」

「…まぁ、7分くらいかな」

「爆弾…起動させられましたよね?」

「あぁ、されてた」

「…行かなきゃ」

私は立ち上がろうとするけど、何故か足が動かなかった。

「…」

なんということでしょう。拘束されてるじゃないすか。

「え…っと…どゆこと…?」

「どうせ逃げるだろうから、話を聞くために縛ってる」

カヅラちゃん、いつの間にそっち側についてんのよ…

「はーい抵抗しても無駄ですよー。僕たち及びカヅラさんを牢獄にブチ込んだ理由を教えてくださーい」

「…」

言うもんか。

「…」

「フェニカ」

「はーい」

するとフェニカちゃんは私の近くに…って待て待ておい。

その手に持ってるのは何だ。え?

「日記…」

そう、私の日記。ちなみに言っておくけど、かなり恥ずかしいヤツ。ど、どろぼう!

「えーと…×月×日…」

「えっちょっと待って」

「すれ違った男の人がずっと私の事を見ていた。あぁ、私が可愛いんだなと思った。知ってたけど」

「あ…ちょ…ねぇ…」

想像もしなかったこんな展開。そもそもどこからそんなもの見つけてきた。やっぱりどろぼう!

「服を試着したら、店員さんに『似合ってますね!』って言われた。馬鹿か。私には全ての服が似合うんだ。何故なら、私は世界で1番…」

「いやあああああああああっっ!!話すから!話すから!お願いだからもうやめてぇぇぇぇっ!!」

「世界で1番…ふふっ」

「あぁぁぁぁやめてやめてやめて」

「これは…ふふふ」

「しにたい…」

まさかこんな事になるとは。もう二度と日記なんて書くものか。もうやだ。




「ここは…監獄地区っていう場所なの」

よっぽど恥ずかしかったのか、寝転がりながら喋りだす。

「監獄地区では、囚人が多いほどランクが上になるの。その方法で決めた人たちで治められている場所」

「なんですかそのエグい上下関係…」

「それで、この監獄地区で1番上の人は、カガリさんっていう人でね」

「どんな人?」

「そこで倒れてるのがそのカガリさん」

「死んでるけど」

「え、死んでるの」

僕たちはかなりヤバい人を殺したっぽい。とは言っても、コイツは銃に弾を入れていなかったから、殺すしかなかったんだけど。なぜ入れなかった。

「えっと…それで私は、カガリさんに拾われた身で…」




「来ないで…」

力も無いその声に俺は初めて人を可愛そうだと思った。

大雨の中、道端で独りでいた少女は、木の枝のようにやせ細っている。俺は手を差し伸べた。

「大丈夫、俺はお前に危害を加えない」

普通だったら自分より弱そうな人間は囚人として連れ帰るが、こんな子を牢獄に入れるほど外道じゃない。

むしろ自分の子供のように育てようかとも思っていた。

「みんな、そう言う」

そんな事知っている。人間などその程度のものだと俺は今までの人生で何度味わったか。

「…まぁ、信じろとは言わない。生きたければ付いてこい。お前次第だ」

無理矢理に連れ帰っても良かったが、雨に濡れると面倒だから向こうから付いてこさせる事にした。付いてくる確信があるわけではないが。

自宅のドアを開け中に入り、外を見ると、少女はかなり離れた場所で様子を伺っていた。

「…来るのか、来ないのか」

すると少女は静かに近づいてきた。

「本当に生かしてくれるの?」

「あぁ、俺が保証する。いつかお前に妹を差し出す」

監獄地区で生きるためには囚人が必要だった。

そのために俺の妹を少女に差し出すことにした。

妹の名は、カヅラ。

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